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15 本当の姿

 倫之くんから逃げ出すようにして自分の部屋に戻ってきた僕は、呆然と座り込んでいた。


 どうしよう、僕、宮司のことが恋愛の意味で好きなんだ……。


 突然自覚した想いに困惑していると、ふすまの向こうで人の気配がした。


「あの、中芝さん……」


 倫之くんの声は、どことなく申し訳なさそうだ。


「いきなりあんなことを言われても困りますよね。

 すみませんでした。

 嫌だったらもう忘れてくれてかまいませんから」

「あ、待って、違うんだ」


 手を伸ばして襖を開けると、倫之くんはちょっと驚いた顔をしていた。


「ごめん、倫之くんが悪いわけじゃなくて、完全に僕の方の事情なんだ。

 ごめん」


 倫之くんが自分が悪いのだと誤解してはいけないと思って謝ったものの、倫之くんの方は何が何だかわからないと言った様子だ。

 それはそうだろう。

 いきなり逃げ出した上にこんなふうに謝られても、倫之くんには意味がわからないに違いない。


「ごめん、僕、佐々木宮司のことが好きみたいなんだ……」


 もしかしたら、倫之くんにとっては聞きたくないことかもしれない。

 それでも真剣に告白してくれた倫之くんには、自分もきちんと説明することで返したいと思ったので、僕はたった今自覚したばかりの気持ちを自分の中で整理しながら話し始める。


「さっき倫之くんに言われて、倫之くんの好感を持てる部分を考えてみたんだけど、よく考えたら、それは全部、倫之くんが佐々木宮司に似てるなって思ったところだったんだ。

 たぶん僕はずっと、倫之くんを通して宮司を見ていたんだと思う。

 宮司は同性だし僕よりもずっと年上で神職の大先輩だから、自分が宮司に対して恋愛感情を抱いているなんて思ってもみなかったけど、さっき倫之くんに言われて倫之くんが恋愛対象になるかどうか考えてみて、それで初めて自分が倫之くんじゃなくて宮司のことを恋愛対象として見ているんだって自覚したんだ」


 僕の話を聞く倫之くんは、驚いたような顔をしている。


「ごめん。

 本当にごめん。

 せっかく告白してくれたのに、こんな結論になって申し訳ないけれど、僕は倫之くんの気持ちには応えられない」

「……なんだ。

 そうだったんだ」


 僕の答えを聞いてそうつぶやいた倫之くんは、どういうわけか、うれしそうな顔になっていた。


「そういうことでしたら、もっと早く言えばよかったですね」


 そう言った倫之くんはもう、倫之くんの姿ではなかった。


「えっ⁈ 宮司⁈」


 僕の目の前に立っていたのは、倫之くんではなくて、佐々木宮司だった。

 いつもの白衣に紫袴の姿で、顔だけでなく体格も声も、間違いなく宮司のものだ。


「中芝くんがそう言ってくれて嬉しいです。

 私も、中芝くんのことが好きですよ」


 しゃがんで僕と目線を合わせた宮司が、僕のほほに指先でそっと触れながら、いつもよりも少しだけ色気を増したやや低めの声でそう言う。

 けれども僕は、正直その色気にドキドキするどころではなかった。


「ぐ、宮司はお通夜に行ったんじゃ……。

 ていうか、さっきまで倫之くんだったのに……」

「ええ、そうですよ。

 さっきまでは倫之で、今は私です」


 僕の当然の疑問に、宮司はくすくすと笑いながら答える。


「え、待って、だからどっちなんですか」

「うーん、どっちと言われると少し困りますね。

 どちらも私であり、どちらも本当の私ではないと言えるので」

「じゃ、じゃあ本当は誰なんですか……?」

「まあ、本当の私と言うと、一応はこの姿になりますかね」


 そう言うと宮司は、僕の目の前でまた姿を変えた。



 

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