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トリミングパニック!!  作者: もふまみれ
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第4話 「ワクチン接種、妹先生ミモザに現る!?」

ある日の午後。


ペットショップ『ミモザ』でトリマー見習いでアルバイトをしている私こと、トリマー見習いの16歳の女子高生"橘ささら"。


私は床に落ちた動物の毛をひたすら無心に掃除機で吸いとり、店の奥では店長がマルチーズのまるるちゃんのトリミングに集中していた。


そして、事件は起きた。


ピー、と軽快な音を立て、店の入り口の自動ドアがスライドする。


その開いた先に立っていたのは、見た目中学生くらいの小柄でお人形さんの様な可愛い女の子。

サラッとしたロングヘアーのふわふわな黒髪が、可愛いさと大人びた雰囲気の両方を醸し出している。


「えっ……えっ、どちら様ですか? もしかして、迷子になっちゃったのかな? お父さんやお母さんと一緒に来てるのかな?」


すると、その子が私をギロリと睨みつけました。


「あんたねぇ!見た目で判断するのやめなさいよ! いくら背が小さいからって、子供と勘違いするなんて失礼でしょ!」


「ご、ごめんなさい!てっきりお客様のお子様か誰かかと……」


私が必死に謝ろうとすると、奥でトリミングをしていた店長が顔を出しました。


「ああ、ミーコ!来たな。忙しいのに悪いな、急に頼んで」


店長が慌てて両手を上げて謝ると、ミーコは店長を指差してさらに眉間にしわを寄せました。


「悪いなじゃないでしょ! まったくもう、兄貴は! 電話に出なさいよね! 何回かけたと思ってるのよ!?」


ミーコと呼ばれた女の子は不機嫌そうに店長に言い放つ。


あれ・・・・兄貴って言った今?

戸惑いを隠せない私に店長が声を掛ける。


「ああ。橘さん、ちょうどよかった。今日ミモザに預かってる動物たちのワクチン接種に来てくれる獣医でも有り妹の獣医さんだよ」


話を聞いた所どうやら妹さんのようだ、とりあえずはじめましてのご挨拶をしないと・・・。


「は、 はじめまして!橘ささらです!よろしくお願いしま……す……ええっ!? 店長の妹さん!? そして、獣医さん!?」


「普段は動物病院で勤務してるんだが、今日はウチの子達のワクチン接種の為に店に来てもらったんだ」


「え、えええええっ!? という事は・・・・私より年上……!?」


物凄い失礼な対応をしてしまった気がする・・・。


「"年"に関する話はやめよう、な、アルバイト君?」


笑顔で私に話しかけるミーコ先生は、顔は笑っているが機嫌の悪い今にもシャーッと怒りだしそうな猫の様な雰囲気をしていた。


「ご、ごめんなさい!! 色々と本当に申し訳ありませんでした!!」


「も、もういいわよ。謝るならちゃんと頭上げて言いなさい」


その声は、さっきまでの怒りを含んだものとは違い、少し柔らかだった。


「じゃあ、早速準備を始めるわね」


ミーコ先生はそう言うと、持っていた革製のドクターズバッグを開けました。

中から取り出したのは、真新しい白衣です。その白衣を丁寧に羽織ると、小柄ながらもキリッとした印象に変わります。

知的な眼差しが、その可愛らしい顔立ちに、一層深みを加えていました。

可愛らしく少女の様な雰囲気から一転、まさにプロの獣医といった佇まいに。


「まずはこの子からね」


最初に診察台に乗せられたのは、いたずら好きで有名なトイプードルのココです。ココは、少しでも気を抜くとすぐに診察台から飛び降りようとする、やんちゃな性格。普段のトリミングでも、橘さんの隙を見ては、すぐにテーブルの端に駆け寄ってしまうのです。


ミーコ先生はココに優しく声をかけながら診察用の台に乗せると、予想に反してココはおとなしくしていました。

そして手際よく聴診器を当て、全身を触診を行う。


「うん、心音は正常。お腹も問題なし。皮膚も健康よ。ワクチン、打つわね」


ココちゃんは診察台に乗せられた途端、ガタガタと震え始め、今にも逃げ出しそうに身をよじります。しかしミーコ先生は慌てることなく、ココちゃんをそっと抱き上げました。ココちゃんは一瞬抵抗するものの、白衣を着たミーコ先生の腕の中で、**まるで魔法にかかったかのように大人しくなりました。**その目は不安そうに揺れていましたが、ミーコ先生を見上げると、不思議と落ち着いたように見えました。


「大丈夫よ。ちょっとチクっとするだけ。すぐ終わるからね」


ミーコ先生はそう言うと、私に視線を送りました。私が少し戸惑っていると、店長が横から「橘さん、タオルだ!ああいう時は体を包んでやると落ち着くぞ!」と助け舟を出してくれたのです。


「は、はいっ!」


私は素早くタオルをココちゃんの体に巻きつけました。


「動物が極度に緊張している時は、無理に押さえつけるよりも、体をタオルで包んで視界を制限してあげるのが効果的です。安心感を与え、落ち着かせることができます」


店長の落ち着いた声が店内に響きます。その間にミーコ先生は、まるで熟練の職人のように、素早く正確にワクチンを接種しました。ココちゃんは、一瞬だけ「キャン!」と鳴いたものの、すぐに私の腕の中で落ち着きを取り戻したのです。


「すごい!ミーコ先生、あっという間だったね!怯えていたココちゃん、ミーコ先生の前だと嘘みたいに落ち着くなんて!」


私が感動して声を上げると、ミーコ先生はフンと鼻を鳴らしました。


「獣医なんだから当然でしょ。動物は言葉を話せないんだから、五感をフルに使って、わずかなサインも見逃さないのがプロよ。トリマーさんも、爪の伸び方や肉球の色、皮膚の状態を普段からよく見ておくといいわ。トラブルの早期発見につながるから」


その言葉に、店長も真剣な表情で頷いていました。ミーコ先生の言う通り、私たちが普段何気なく行っているトリミングの中にも、獣医さんの視点から見れば、動物の健康状態を測る重要なヒントが隠されているのです。


ワクチン接種後の注意点と、動物のサイン

全ての診察とワクチン接種が終わり、ミーコ先生は白衣の袖を少し捲り、私と店長に向き合いました。その表情は真剣そのものです。


「さて、ワクチン接種は無事に終わったけれど、いくつか重要な注意事項があるわ。これは飼い主さんにもしっかり伝えてあげてね」


ミーコ先生はそう切り出すと、普段のツンとした口調とは打って変わって、とても丁寧で分かりやすい説明を始めました。


そして、飼い主さんに伝えるべきワクチン接種後の注意点と、動物の体調変化を見極めるサインについて、プロとして詳しく説明してくれました。


その知識量と、真摯な姿勢に、私も店長も改めて感銘を受けました。見た目とは裏腹に、すご腕な”獣医さん"なのだと。


ミーコ先生が帰った後、店長はふう、と一息つき、肩の力を抜いていました。


「あんな性格だけど腕は確かだからな? 何より動物たちのことを真剣に考えてる。だから、信頼できる」


店長はそう言うと、ミーコ先生が立っていた診察台の方を、どこか誇らしげな目で見つめていました。その視線の先に、私には確かに、真っ白な白衣を纏ったミーコ先生の頼もしい姿が見えるようでした。


その時、ミーコ先生のスマートフォンがカウンターの上に置き忘れられているのが目に入りました。


「あっ、店長!ミーコ先生がスマホ忘れてますよ!」


私は慌ててスマホを掴み、自動ドアを開けて外へ飛び出しました。


「先生ー!忘れ物ですー!」


ミモザの入り口から数メートル離れたところに、ちょうどタクシーを捕まえようとしているミーコの姿が見えました。私の声に振り返ったミーコ先生は、私にスマートフォンを差し出されたことで、少し驚いた顔をしました。


「ああ、悪い。ありがとう」


ミーコ先生はそう言って、クールな表情でスマホを受け取ります。そして、私の顔をじっと見つめ、どこか探るような、鋭い視線を向けてきました。


「ところで、あんた、彼氏とかいるの?」


ミーコ先生の突然の質問に、私の顔がカーッと真っ赤になりました。不意を突かれた上に、まさかミーコ先生からそんなことを聞かれるなんて!


「な、ななな、なんでそんなこと聞くんですかぁぁ!?!?」


全力で首を振って否定しながら後ずさる私に、ミーコ先生が言いました。


「別に。ただ、うちの兄貴に変な虫がついても困るなって思って。……ま、アンタにその気があっても困るけど」


「大丈夫です、今の所動物にしか興味がありませんので」


思いつく限りの満面の笑みを浮かべて私は答えた。


「それはそれで寂しい人生を送る事になりそうねあなた……」


先生が何か可哀そうな生物を見るかの様な慈しみの目で私を見ている……


「まぁいいわ、それじゃあね橘さん」


そう言って、ひらりと綺麗な黒髪を揺らしながら往診バッグを片手にタクシーに乗り込むミコ先生。

ドアが閉まり、車が発進する直前に、後部座席の窓がスッと開いた。


「それと……動物への接し方、悪くなかったわよ。次に会う時、もっと成長してなさい。楽しみにしてるから」


その一言を残して、ミーコ先生は窓を閉じ、タクシーは走り去っていった。


つづく

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