第2話「ドライ仕上げパニック!!」
日はペットショップミモザでアルバイト、見習いのささらは今日もひよりに付き添っています。
そして店長さんから声がかかる。
「じゃ、お二人さん次の子お願いね。ミニチュアダックスの“くー”ちゃん、ドライと仕上げよろしくね」
「はい!よーし、くーちゃん、がんばろーねー!」
張り切る声とは裏腹に、ささらの顔には一抹の不安が浮かんでいた。
(……この子、カルテに“ドライヤー苦手”って書いてたな……)
くーはシャンプー後のタオルドライを終えて、トリミングテーブルの上にちょこんと座っている。が――
「ふる……ふる……」
小刻みに震えている、寒いのかな。
「だ、大丈夫だよ~。こわくないよ~。あったかい風が出るだけだよ~?」
初日の大失敗の教訓を活かし、スイッチの風量と温風になっている事を確認しっかり目視で確認する。
そしてささらが優しく語りかけながらドライヤーのスイッチを入れた瞬間――
「ギャンッ!!」
「えっ!?う、後ずさり速っ!」
犬だけど脱兎のごとく逃げ出したくーちゃんが、テーブルの端まで逃げた所でジト目でこちらをにらむ。
「そりゃ怖いわな。いきなり“ブオーッ”て来たら、人間でもビビるし。で、ささら、風の向きどうした?」
「風邪ひいちゃうといけないから、頭から乾かそうとしてたよー?」
「あー、そういうことかー」
「まず風は首の後ろから当てて気持ちいいぞーっていうのをわからせて次は体全体っていう風に徐々に慣らしていくといいぞー」
「な、なるほど・・・ごめんねくーちゃん」
「あと、耳を乾かす時は慎重にねー、こうやって耳を抑えながらやれば音が小さく聴こえるから。
ダックスは耳が大きい分、ドライヤーの音に過敏になりやすいの」
「は、はいぃ!」
ささらは今度こそ優しく、そっとくーの背後から風を当てた。……が、
「キャンッ!?」
くーはまたもや逃げかける。
「だぁあっ、ごめんごめん!……えっと、どうすれば……!」
「よーし、それでは手ドライ作戦を実行する!」
「え、なにそれ?」
「タオルと人の手で、なるべく乾かしてから仕上げだけドライヤー。間にブラッシング入れて、乾きやすくするやつ」
「まあ実際、耳やお腹まわりが苦手な子には有効。無理やり当てて余計にトラウマ植え付けちゃうよりマシなんだよなー」
「……ひよりちゃん、なんでそんなに詳しいの?」
「バイト初日から5匹に噛まれそうになったら、嫌でも成長するんだなー」
そう遠い目をして語るひよりの顔は、若干恐怖にひきつっていた・・・。
ささらは手にドライタオルを持ち直し、くーの背中を撫でるように拭き始めた。優しく、あったかい手で。
「うん、いい子だねぇ~、くーちゃん……えらいよぉ~……」
「そのまま手でゆっくり乾かして、音が苦手な子に使う静音ドライヤーで仕上げよう!」
「おっけー!」
ささらが静音タイプのドライヤーを持ち出して、改めて風を遠くから当ててみる。
……くーの耳が、ピクリ、と揺れた。
「う……うう……動かないけど……でも逃げてもない……っ!」
「そう、それ。反応はしてもパニックになってない。それが“慣れてきたサイン”」
「すごい……ほんとに少しずつ慣れてきてる……」
「このパターン、成功率高いのよ。音→風→熱、って順に慣らすのがコツ。スピードより安心・安全だね」
そこからの数分間、ささらはできる限りの優しさでドライを続けた。ときおりブラシで毛を開き、根本を乾かす。仕上げには抱っこしながら静音ドライで顔周りを――
「……あれ?」
くーちゃんがコテンと台の上で寝そべった。
「えっ、ね、寝ちゃった!?」
くーは気持ちよさそうに目を閉じて、ふわふわの毛並みを揺らして寝息をたてていた。
ささらはドライヤーのスイッチを切り、そっとつぶやく。
「風って……優しくすれば、心まであったまるんだね……」
「ささら、あんたトリマーよりポエマーのが向いてるんじゃない?」
明らかに揶揄う様な表情で冗談を言うひより。
「うぅー、ひよりちゃんひどい!!」
騒がしいけど、ちょっとずつ成長してる。
トリマー見習いささらの騒がしくも優しい一日でした。
貴重なお時間を頂戴し、今回のお話を読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m
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