1 死にたくない!
気が狂ってる人の話が書いてみたくて……。 彼は狂人です。
俺は死にたくない。
何があろうと、絶対に死にたくない。
体が動かなくなっても、意識が消えても、何も感じなくなっても。
死んだほうがマシだなんて、そんなことは一度たりとも思ったことはない。
だから、こんな状態になっても俺は、
「死にたくなアアアアァァァァァアアァァァァァアァアァァァアァい!!」
と叫び続けているのであった。
周囲からとんでくる、怯えたような視線は一切無視して。
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本日の天気、雲一つなし。
「おはようございまーす」
朝の挨拶、よし。
「ああ、おはよう」
「今日も仕事かい?」
「帰り寄ってってね、みかん採れたから」
近所の人の反応、問題なし。
さて、今日も一日頑張るぞ! と気合いをいれ、いつもの通りバスが来るのを待っていた。
──はずだった。
「危ない!」
「え?」
凄まじい衝撃とともに、バキ、と何かが折れたような音、反転する世界。霞む視界の中で、通行人が足を止めてこちらを見ている。立ち上がろうと腕を動かしてみても、フィルターを何枚も重ねたようなぼやけた感覚しかしない。なにか、温い液体が皮膚を伝っているような。
あれ、もしかして、俺、今。
「しに、かけてる……?」
ネットで事件事故の発生率が低いところを調べてここに引っ越してきたのに、
災害時に避難しやすいように防災グッズを鞄に入れて毎日携帯してたのに、
犯罪に巻き込まれないように地域の人とも良好な関係を続けてきたのに、
生活習慣病が原因で死なないように健康に人一倍気を付けてきたのに、
万一滑って転ばないように快晴日数が多い曜日に出勤していたのに、
そんな俺が、
県外ナンバーの外車に轢かれて、
死ぬ?
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
絶対に、死にたくない!
「あ…少しで、…きゅう…ゃが来ます…らね!」
ぼんやりと人の声が聞こえた。救急車が来ると言っているようだ。
その声に縋るように俺は、
「し、にたく、ない……!」
と叫んでいた。
最初、『死ぬくらいなら死んでやる!!』ってタイトルにしようとしてたんですけど、意味がわからないのでやめました。
『生きるために生きている』も意味がわからないんですけどね。