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『身命ともに鋼の如く3』

「――()()、か」

 フランは頤に人差し指を当てて怪訝そうにつぶやいた。

「まるでボクが裏切ることを知っていたような風だ」

「別に知ってた訳じゃない。唯疑念は在った。違和感もな」

「窺っても?」

「つまらないぞ?」

 フランが階段を下りてくる。

「第一の違和感――お前が一目でステラを妖精だと判断したコト」

「ふむ」

「俺でさえ、彼女の羽を見る迄妖精だとは思わなかった。なのにお前は彼女を一目見て、妖精だと理解していた。いや、()()というのは間違いか。お前には視界が無いのだから」

「確かに」

 フランは苦笑交じりに呟いた。

「だけどその論には少し穴があるね。ボクは遠征を取り仕切る立場にある。当然候補者を見繕う必要があるワケだ。ほら、彼女を知っていても可笑しくないんじゃないか?」

「管理人である俺にも武器庫の詳細を伝えていなかったのに? ありえないだろ」

「おや、随分と厳重なんだね」

「まったくだ」

 彼女と初めて……そう、運命的ともいえる邂逅をはたした時、彼は心を動揺の渦に落としてしまった。

 それ程妖精とは現在においても超常の存在なのだ。

「第二の違和感を聞こうか」

「……」

 ネオンの光に照らされて、フランはリーベスと向き合った。

「第二の違和感……どちらかと言えば、こっちが本命だ。そもそも可笑しいんだよ。お前が亜人区に居たこと自体が!」

「可笑しくは無いと思うけど? ボクは上の命令で亜人区に居た訳だし」

「それがそもそも可笑しい」

「聞こうか」

 フランは楽し気に眉を上げた。

「上層部が、亜人区に【未開拓領域】の資源を横流ししているとお前は言ったな?」

「ああ、言ったとも」

「……あれ程亜人を嫌い、西部に隔離して……その西部が焼け野原になったら、壁の傍で繋いだ上層部連中がか?」

「……」

 かつての亜人戦争の名残故か、上層部の亜人嫌いは激しい。

 いくつかの例外を除き、総ての亜人を排斥しようとしているとさえ思える。

「閣下でさえ、意見を通すの苦労しているというのに?」

 建国以来の貴族であるアオレオーレ。彼らの尽力によって亜人の差別は表向きは収束を始めている。

 だが決してそれは実情を伴わない。

 アオレオーレ現当主であるリドラがしきりにボヤいているのを幾度見たことか。

「何より、上層部の誰かが亜人区に横流ししたとして、メリットは何だ?」

「……」

「金か? なら別の区に横流すだろ。あんな貧民窟にどれだけの利益がある?」

 そう。金ならば別の場所に流せばいい。

 他の利益……例えば技術的な権益だとするならばそれこそ論外。

 もともと彼らは技術の流出を恐れているし、仮に同輩を出し抜くためだったとしても、亜人区の連中に【未開拓領域】の資源を運用する技術と経験がない。

「ノウハウの無い彼らに横流ししたって、意味は無い」

「成程いい推理だね。だけど一つ欠点があるね。すなわち|Why done it《動機》だ」

「そう……動機だ。俺が解せないのは。如何してお前はこんなことをした? 〈モンスター〉を利して何になる?」

「それを推理するのが君の役割だろうリーベス?」

「生憎探偵ではなくてな、廃品回収が関の山さ」

「まったく――分かってないなぁ!」

 フランは自分の胸に手を当てた。

「ボクは! 君のために! 君を想って! 君だけを想って! 君を待ったんだよ!」

「……?」

 当惑する。何時にないフランの狂態。

 何時も静かに微笑んでいたフランと今のフラン、まるで人が変わったようで――……。

「違う! 違う違う! ボクは列記としたフランソワーズだ! 贋物だとかのちんけなモノじゃない!」

「フラン……お前さっき、俺のためと言ったか?」

「そうとも君のためだ!」

「この状況が、俺の何になる?」

「君の望みを叶えて上げられる」

「望みだと? この状況が、お前の裏切りが、俺の望みとどう関りがある……」

 どれ程想像を働かしても、今の状況が自身に利益ある形になるとは思えない。

「――()()()()()()()()()()

「……‼」

 その言葉はリーベスの芯を捉えて離さなかった。

 優しく、重量的で、猟奇の権化のようで……。

 それでいて、其処には「リーベス」への愛で溢れている。

「……君は自分の望みを叶えるには強すぎるんだ。あれだけの死線を潜り、あれだけの〈モンスター〉とわたり合って、それでも君は死ねない。巨海の五体は鋼のようで、君の命は鋼そのものだ」

「……」

「その意志は剣のように鋭く、故に! 君は自身よりも強いものに殺されようと望む! 君はきっと英雄よりも殺し難い」

「……」

「だからボクが殺してあげる」

 フランは抱きしめる前のように、両の手を広げた。

「――一緒(とも)に死のうリーベス。君を抱きしめさしてくれ」

「フラン……」

 リーベスは重苦しい息を吐いた。

「無理だ」

「如何して……?」

 リーベスが拒否するとは思っていなかったのか、殊更に悲しげな声を出す。少し狼狽しているようだった。

「そんな筈が無い。君がボクを拒否するなんて……」

「生きる目的が出来たんだ。生きたいんだ」

「そんなの贋物だ。一時の気の迷いだ」

「……」

「この無意義な世界で生きて何になる? この無意味な人間共と共に生きて何になる!」

 ……フランの絶望が垣間見えた。

 独善的で、身勝手な()の絶望が――。

「おかしいよ! だってフレデリカが死んだとき君は……!」

「フラン……願われたんだ」

「え――?」

「確かに俺はこの世界を幾度も呪った! どうしようもないこの世界を滅べと、何度も、何度も! 叶わないのら、せめて共にと」

「そうだろう? だったら……」

 リーベスは心胆に秘められたかつての心を呼び起こした。

 破滅的な願望が、鮮明さを取り戻していく。

 だが、その願望に寄り添おうとは思えなかった。

「だけど、願われたんだ」

「……」

「フレデリカに、生きてくれって言われたんだ……」

「……」

「この両の手がまだあの日の温もりの残滓を捉えている」

 忘れる筈も無く、昔日の温もりを未練がましくも両の手に刻み付けている。

「この温もりだけは裏切れない……」

「……いいさ、死人の願いに囚われているのなら、ボクが解放してあげる」

「フラン……!」

 酷薄にフランは嗤った。

「是からの戦闘で克明に知れるだろう……君は弱く、ボクは強い‼」

「俺が止めてやる、お前の息の根を……‼」

 かつて友だった者として――。

「魔に傾いたお前を殺すのが、『英雄()』の役割だ‼」


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