『身命ともに鋼の如く1』
レインの指示でベースキャンプの面々は一日静養し、雄鶏が啼き声を上げるころに起床した。
そして各々いつものルーティンを行った。
気負ったものは誰も居らず、ただ自身のなすべきを為すために、戦意を研いでいる。
「やあ、リーベス君調子はどうだい? 英雄になる準備はおーけー?」
ステラと友に居たリーベスを見つけると、レインは声を掛けた。
「見ての通り、絶好調とは言えないな」
彼は左を開閉してみせた。
ぎこちなさが窺えた。
「ふむでは残るかい? 他の負傷者と一緒に吉報を待つかな?」
少し煽るように言った。
「まさか。確かに調子は良くないが――」
リーベスは嗤った。
「――負ける気がしない」
「それは何よりだ……君は如何かな?」
ステラの方を向いた。
「私も負ける気がしないよ!」
「結構だ。二人共、二日前までかなり疲弊していたのに随分と調子を取り戻している。何か秘訣があるのかな?」
「さてな」
ステラの顔を見てから、リーベスは素っ気なく答えた。
「残念だ」
つれないリーベスから視線を流し、総ての将兵たちを捉えるように視界を回す。
皆、戦意が著しく高い。
正しく壮観なり。
「――昨日語った通り、今朝! 英雄が生まれる‼」
その語りはまるで吟遊詩人のようだった。
「私はそれを目撃する! 天を穿ち、やがて世界を動かすであろう英雄が、今日生まれる‼」
そう、英雄の背をずっと追いかけてきた。
だからこそ、自身が英傑には決して届かないと知っている。
「行くぞ……! 英雄どもよ‼」
レインの号令に応えて将兵たちの雄たけびが響く。
それに合わせて、少し前まで自分たちを堅固に守護していた基地『トゥーゲント・ヘルト』へ進行する。
「今更だけど、お前も戦うんだな!」
「もちろんだとも。私が、怪我人と共に吉報を待っていられるとでも? こう見えてもせっかちなんだ、あまり焦らさないでくれよ!」
リーベスはちらりとレインの武装を見た。
かなり軽装だった。
皮鎧に近い武装で、かなり移動に割り振られている。
しかし、彼の背には身の丈をこえる対物ライフルが背負われている。
「ていうか、ずっと前から思ってたんだけど……」
「なんだ?」
「なんだい?」
ステラが頤に指をあてて疑問を口にした。
「レインさんって君の上司でしょ? 敬語つかわなくていいの?」
「そう言えばそうだなあ……」
「気にしてなかったんだ⁉」
「なんかいつの間にか、気にしなくってたな」
「軍人としてどうなの?」
全くの正論だった。
リーベスはバツが悪そうに目を逸らした。
「アッハッハッハ! 好いね君たちお似合いだ!」
愉快に笑う。この状況で全く緊張していないとは、これが英雄の素質なのだろうか?
「ああ……、敬語の件はどうでもいいよ?」
笑いが収まると、涙を拭いながらレインが言う。
「いいんですか? こうびしっといった方がいいんじゃ……」
「お前はどっちの見方なんだ。閣下がいいって言ってんだからいいだろ?」
「社会の秩序を乱すのは良くないと思うなぁ~」
話しながら大凡三分ほど走ると巨大な建造物が眼前にたたずむ。
巨大樹によって隠された『トゥーゲント・ヘルト』だ。
「それでは突入する! 各員、地中からの奇襲に備えよ!」
レインの指示によって、個別に隊伍を作り大きく崩落して、大穴を開ける壁へ進行する。
侵入の瞬間を狙われることなく、全員が無事基地内に入った。
「当然と言えば当然なんだろうな」
「だろうね。〈モンスター〉の狙いは如何やら私達の殲滅らしい」
共通認識をすり合わせる。
この類の会話は昨日十全に済ませてあるが、それでも慎重を喫して損はない。
「これより、作戦を実行する。二手に分かれろ!」
指示に従い、二手に分かれた。
「ステラ! 気を付けろよ!」
「君こそ! 勝って帰ろう……!」
リーベスとステラは違う別行動だ。
「作戦目標は、新種の〈モンスター〉の駆逐! それと通信機器室の確認!」
望み薄であろうが、通信機器がもし生き残っていたなら、それだけで勝利条件になる。
「では、また会おう!」
「案内頼むぞ!」
「ええ!」
黒髪を揺らしながら、リーベスは思考する。
この戦いはかなり苦しい。
まず……勝利条件の曖昧さ。
勝ちの条件が不明すぎる。
あの未知の〈モンスター〉、枝蛇の総数を此方が把握していない。其れの殲滅なぞ現実的ではない。
そして仮にできたとしても、そのあとが問題だ。
今は【災害級】の影響か、一般〈モンスター〉が近寄っていないが、【災害級】の討伐を為したなら、今度は〈モンスター〉が攻め立ててくる。
「だからこそ、通信機器の掌握はマスト!」
中央区に連絡をとる! こちらからの通信が途絶して2日、向こうもある程度探りを入れているだろうが、中央区は技術の専横を平気でするほど保守的だ。
彼らの重い腰を上げるのを待つ訳にはいかない。
「……!」
「どうしました?」
金髪の伍長が訊いてくる。
「強襲だ! 避けろ‼」
『‼』
リーベスの叫びが響き、全員が奇襲を予期して硬直する。
攻撃が来なかった。
――地面からは。
「……⁉」
天井が樹木のようなモノに貫かれて崩落を始める。
「地面の動きを囮にしやがった⁉」
地面にばかり注意を傾けていたのを利用された! 数度の地面からの奇襲で印象付けられていた! 奴らは地面から攻撃を仕掛けてくると‼
「くそ……‼」
裁断するように、樹木のようなモノが降り堕ちた。
それが、リーベスと他の将兵たちとを分断する。
「……!」
なんとか落石を回避して、着する。
「分断されたか……」
それだけではない。退路を断たれた。
後ろの樹木の壁をみて痛感する。
「何を今更……、元々勝つ以外の選択肢なんてない」
決意を新たに踏みしめる。
その地面からは死のにおいがした。




