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『盲目』

 ――初めて君を見た時、ボクの心は焼け落ちた。

 (まなこ)を通して、視神経と脳髄を焼けただれるほどに、君を焼き付けた。

 よくよく熱を通すこの憧憬は――どうしようもないほど、網膜を傷つける。

 ダメだった。

 もう何も見えない程。

 ――君を見てる。


「――君は、如何してサルベージをするの?」

 星々の光に照らされる雑踏の中、一人の少女が軍属の男に訊いた。

「なんでだったかな、ゴブリル……友人の男に誘われたからかな」

「誘われただけで、危険な場所に足を運ぶの?」

「……あの時の俺には、ただそれだけが救いだった」

 そこまで遠くない過去を振り返る。

 お世辞にも精力的とは言えないほど、衰弱していた。

 様々な出来事に晒されて、彼は摩耗していたのだ。

 そんな彼を見かねた緑色の友人に誘われて、リーベスはサルベージ事業を始めたのだ。

 軍務以外の何かをしたかった。

 使命感以外の何かを心に宿したかった。

「やってみると、すごく楽しかった。初めての文化、初めての技術、初めて相対する〈モンスター〉……全てが俺の心を溶かした」

 まるで落としたものを拾い上げるようで、失くした何かが見つかり――空いた隙間を埋めるようだった。

 天を仰いでみた。

「存外、道を見失ったなら、脇道に逸れてみるのもいいのかもな」

「脇道……?」

 ステラはぴんと来ないようだった。

 当然だろう。リーベスとて、具体的な所感を持たないのだから。

 ふと思った、ただの感想だ。

「よくわからないけど、リーベスはサルベージが好きなんだね」

「そうだな」

 彼女は嬉し気に微笑んだ。

 彼の好きなモノを知れたことが嬉しかった。

「そっか、だったら――いつか私を連れて行って」

「……、無理だろ」

「そこは、〝いずれな〟って言う所だよ、君~……」

 リーベスの言葉を予想していたのか、彼女は残念そうに笑ってみせた。

 国内の市街に出るのとは訳が違う。

 〝妖精兵器〟である彼女を国外に出すのは、不可能だ。

「――――」

 その応えは分かっていたけど。

 ――我儘を言うならば、いつか連れ出してやると言って欲しかった。

「ステラ……?」

 俯く少女を見て、怪訝そうに名を呼び、その手を取ろうとした瞬間――。

「リーベス――?」

 麗しい声が響いた。


「リーベス――?」

 その麗しい声の主は、黒いスカーフを巻いた灰色の髪を長く伸ばした人物だった。

 全盲なのか、瞼を強く閉じて、杖をついている。

「フランなのか……?」

「……?」

 リーベスはどこか当惑した様子だった。ステラが疑問に思っていると、灰色の人物――フランは可笑し気に微笑む。

「ボクが他の誰かに、見えたのかい? こんなに美しい人物が世界に二人と居るとは、中々世界も捨てたモノじゃないらしい」

「自分で言うかよ……」

 旧友の自我自賛に、呆れた声を出す。

「事実だからね」

「そうですか」

 ただならぬ関係であることが窺えたステラは、どうするべきか分からず、所在なさげにする。

 その姿を見かねたリーベスが、フランを紹介する。

「此奴の名前はフランソワーズ。俺の南部戦線での戦友だ」

「おいおい、悲しい紹介をしないでくれよ。軍学校時代からの付き合いだろ? ほらあれだ、同じ釜の飯を食った関係」

「別に同じ寮に住んでたわけじゃないだろ……一緒に飯を食った覚えもないぞ?」

「おやおや、ボクと君の関係ならば、もはや過去は其処迄正確である必要はないと思うけど?」

「どんな関係だ!」

「こんな関係さ」

 言いながら、杖を落としてよろけた真似(ふり)をして、リーベスの胸に飛び込んだ。

「ほら君は受け止めてくれた」

「そりゃあ誰でも受け止めてくれるだろ」

「そうかな? そうかもね」

 相変わらずの迂遠な言い回しに辟易する。

 勘弁しろよと吐き捨てた。

「ちょ、ちょっと! 何時まで抱き合ってるの……?」

 不安げに言ってくるステラ。

「ほら、子供には刺激が強い。離れろ」

「仕方ないこの続きはまたの時に」

「ねえよ」

 フランはリーベスから離れると、独りでに立ち上がった杖を手に取った。

「というわけで、はじめまして御嬢さん(フロイライン)。紹介にあずかったフランソワーズです」

「初めまして! ステラです」

「元気いっぱいだね、いいことだ」

 差し出してきた手をおずおずと握りしめる。

 幾ばくかすると自然と握手は解けた。

「――それで、フラン。お前其の目は如何したんだ?」

「ああ、これね」

 言いながら、深く閉じられた瞼を人差し指でなぞった。

「少し前に、やられてしまってね、中々苦闘しているよ」

「……」

「ああ、気にしないでくれ別に君が南部戦線を離れたからじゃない。この傷は、正真正銘、徹底的に、ボクの悪因悪果さ」

 事も無げに笑ってみせた。

 相も変わらず豪胆だ。

「そうか、なら気にしないぞ?」

「そうしてくれ。本当に君には全く関係ないんだよ」

 リーベスは周囲に目を流した。

 日も暮れて、夜目がきく亜人たちが闊歩し始める。

 流石に悪目立ちしすぎるし、落ち着いて話も出来ない。

「取り敢えず、場所を変えるか」

「おや、案内してくれるのかい?」

「場末だがな、ここよかましだろう?」

「うん、流石に視線が鬱陶しいよね」

 言いながら三名は歩きだした。

 因みに、空気を読んで黙っていた剣が、『何時まで見守っていればいいのかしら?』とぼやいていたとか。






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