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ヴィオレットさまの推し活

【コミカライズ化】真面目な人ほど拾われる

作者: 高月水都

以前書いた推し活していた公爵令嬢の話。(本当は別サイドの話を書きたかった)

 ヴィオレット・メリクリウスは転生者である。


(乙女ゲームの悪役令嬢なんてテンプレだと思ったけど、実際なってみると悪役令嬢を尊敬するわ)

 貴族令嬢らしくないから口には出さないが心の声はしっかり崩れている。


 ゲーム主人公のナタリーはしっかり転生者だったようで着実に逆ハールートに一直線に進んでいる。今日も今日で、攻略キャラと共にどこかに出かけているようだ。


 ………諸々の仕事を放置して。


「期日が迫っているのにこれで大丈夫なのでしょうか……」

 生徒会室で放置されている書類に目を向けて溜息が出る。


 生徒会長のアルフレッド第二王子の調印待ちだった書類だが、攻略キャラだったのであっさりナタリーに誘われて遊びに行ってしまった。


「殿下が第二王子でよかったと思いますよね」

 どこかに潜んでいる王家の影に思わず漏らしてしまいつつ、

「書類偽装したと後で冤罪をかけられたら敵いませんのでしっかり陛下達に報告してください」

 と頼むというか命令できる立場じゃないので進言するというかとりあえず独り言のように告げて、書類を進める。


 ゲームの悪役令嬢たちは実際尊敬できてしまう。攻略キャラがヒロインに誘惑されている中本来なら攻略キャラのすべき仕事を代わりに行い、ヒロインに忠告もして、悪役令嬢としてしっかり当て馬も行うのだから。


 しかも、ゲームでは触れられていなかったけど、王族とか高位貴族は下位貴族や平民の生徒を身分差で冷遇するような輩から青田買いという名目で保護する暗黙の了解があるのに、それすら放棄して一人の女子生徒に入れ込むのは問題しかない状況で、悪役令嬢と言われている攻略キャラの婚約者がその義務を行っているのに、断罪されるのが納得いかない。


(推し活だけが癒しだわ……)

 前世からの【推し】に会えたのは幸運であるし、【推し】が自分の寄り子と婚約したので課金し放題なのは夢のような生活だが、それ以外がきつい。


 書類に目を通して、内容を確認して不可。可と分けていく。


「なんで生徒会の予算で一生徒を優遇する書類があるのでしょうね……」

 平民生徒にダンスの授業用のドレスを新調してドレスに慣れていない生徒に与えようという内容だったが、その与える生徒というのがヒロインだけなのだ。


 生徒達ではなく生徒。なのだ。


 ちなみにドレスに関しては高位貴族が着なくなったドレスを貸し出したり、下賜したりする。ゲームではヒロインはその貸してもらったドレスに緊張して硬くなっていくシーンを攻略キャラが緊張をほぐしていくという流れがあったのだが、転生ヒロインは、

「借りる? 中古品を押し付けてくるなんてひどい!!」

 と喚いて新品を求めたそうだ。で、この書類というわけだ。


 何でそんなヒロイン(?)に心惹かれる? 課金アイテムか? 課金アイテムしかない気がする。

(推しをこき使っていたんでしょうね!!)

 怒りが湧きあがるが外には出さない。貴族令嬢として外面はいいのだ。


 とんとんとん

 一人で黙々と作業をしていたらドアがノックされる。

「どうぞ」

「失礼します……って、今日もいないんですね。会長達」

 苦笑いしか出ないという感じで入ってくるのは生徒会庶務の伯爵家令息だ。


「サトゥルヌス庶務……ええいつも通りよ」

 ゲームではヒロインが生徒会に入っていたが現実では成績とか素行が悪いので生徒会に入ることはなかった。それに関して、

ヴィオレット(悪役令嬢)の所為だわ。あたしを入れないように手を回したのね!!』

 と喚いたとか。まあ、さすがに攻略キャラの前では言わなかったようだが、喚いていた事実は王家の影からも取り巻きの生徒達からも報告を受けている。


「そうですか……」

 呆れることもなく怒ることもなくそれだけの反応で椅子に腰を下ろして書類に目を通していく。もうこの状況に慣れてしまって正直もう諦めたというのがサトゥルヌス庶務から伝わってくる。


「ドレスの新品を与える……。それって、あの生徒のためだけですよね。他の生徒は下賜されたドレスや貸し出されたドレスで大喜びしているし、下賜されても使い道がないと困っている生徒の方が多かったでしょうし」

「そうでしょうね。……新品のドレスを貰ってどうするつもりなんでしょう」

 もうすでに攻略キャラに貢がれているのに。

 公爵家の密偵を使って、乙女ゲームの進展を確かめていたらそんな報告が来た。あと、ヒロインが逆ハーとか悪役令嬢とか意味の分からない言葉を述べているとか。


 時折、そんな軽口を挟みながら書類を無事終わらせる。


「でも、良いんでしょうか?」

 書類が終わって、お茶を飲んでゆっくりするのがいつもの流れ。

「何が?」

「いえ……、生徒会長……第二王子殿下の婚約者であるメリクリウス公爵令嬢と二人きりで……、不貞を働いたと言われる可能性もありそうで……」

 サトゥルヌス庶務の言葉は一理あり、賢い生徒なら普通に気づくだろうが。

(甘いわね)

「安心してください。常にわたくしの傍には王家の影が控えていて護衛兼監視の役割を果たしています。つまり」

「すでに報告されている……ということですか……」

 冷や汗を流して自分が常に見られていた事実に恐れている感じのサトゥルヌス庶務の反応が正常だと思う。


 それに慣れてしまった自分がおかしいのだろう。


「えっ……、って、事は生徒会長の行いは……」

 ある事実に気付いてしまった庶務の言葉ににっこりと微笑んでそれ以上の言動を封じる。ただ、

「すでに動いているわ」

 と伝えておく。


「そっか。そうですか……」

 これ以上は知らない方がいいと思って口を噤むさまに微笑ましいものを感じる。ああ、やっぱりいい。


 くいっ

 サトゥルヌス庶務のネクタイを軽く引っ張り、顔を寄せさせる。


「メっ、メリクリウス公爵令嬢っ!!」

 顔を赤らめて慌てている庶務。


「――ちなみに今はまだ水面下で動いているけど、正式に事が起きたら次の候補に目を付けています」

 言葉を濁し、だが、相手に伝わるように。


 サトゥルヌス庶務の表情が険しくなる。

「――その時に相応しい行いが出来るのを期待しています」

 断るか断らないかは任せる。


 だけど、断るつもりがないのなら。

「肝に銘じます」

 そっとネクタイを引っ張っていた手を剥がして、微笑するのは今までの笑みとは異なるそれ。


 どうやら、断らないと選択したようで作り物ではない本音の溢れた笑みを浮かべてしまった。






「ど、どういうことなんだ!! 何で僕の有責で婚約が破棄されるんだ!!」

 生徒会でいつも通り仕事をしていたらドアをノックしないで第二王子が入ってきて叫ぶ。


「し、しかも、次期公爵になるはずだったのにどうして、アビタリアン王国に婿入りなどと……アビタリアン王国は」

「何、それ……ゲームになかったわよ……」

 第二王子の後ろにはヒロインと同じ生徒会メンバーであり、攻略キャラの面々が付いてきている。


「当然です。わたくしへの婿入りで公爵になるのが決まっているのに、愛人を連れて婿入りするつもりなのか一人の生徒に入れ込んでいて、このまま公爵家を乗っ取るつもりなのかと思われては困ると陛下がおっしゃって……」

「だ、だからって、アビタリアン王国って、女王の治める……」

 冷や汗をかいて必死に何とかしてくれと告げてくる様に流石にアビタリアン王国の内情を知っているのかと元婚約者の認識を改める。


 ヒロインに攻略されて馬鹿になっただけで元はよかったのか。まあ、それでこのような事態になる前に気付けなかったのだからどちらにしても駄目駄目だが。


「そうですね。女王の治める国。女王には数人の夫がおり、すでに何人か息子も娘もいる。あの国は寛容で夫に愛人がいても夫として分別があれば受け入れてくれるそうですよ」

 要は政治に口出しするなということだが。


 公爵家への婿入りの予定だったけどそれが無くなった時点で次の結婚先はない。せめて国の役に立つために同盟国に婿入りだ。お飾りであっても婿入りするだけでも価値はあると陛下は判断したのだ。


 かの国では優秀な人材だと思われた者は性別年齢問わずに次の王になれる。王になれる器ではないと自分で判断した者は自分が王に相応しいと思った存在に忠誠を誓えば命は奪われない。暗殺の心配もあるが、そのような手段を取らず心から忠誠を誓わせる王ほど名君になると言われるから危険は少ないだろう。


 ちなみに殿下だけではなく攻略キャラ全員引き受けてくれるそうだ。


『逆ハーなんて、それが許される環境に置かれていないと次の問題が起こるだけでしょう』

 一度対面したことのある女王陛下は転生者だったのだろう。そんな発言をしていた。


「今からでもなかったことに出来るだろう!! な、ヴィオレット」

 縋るように手を伸ばしてくる殿下の腕をずっと黙って書類仕事をしていたサトゥルヌス庶務が動きを封じるように掴む。


「――人の婚約者に手を出さないでもらえませんか」

 数日前まではどこか委縮していた伯爵令息だったが、殿下相手にも臆することなく告げる様は未来の公爵と感じさせるほどの威厳に溢れている。


 そう。水面下で殿下との婚約を破棄にする方面で動いてその間に次の公爵となる婿を探してきた。なにぶん、ヒロインに攻略キャラが攻略されたのだ。貴族の力関係が大きく崩れて大変なことになったのだ。


 婚約を解消して、まだ婚約者のいない年下の貴族令息や身分差があって候補にも挙がっていなかった者たちと次々に婚約を結び直していき、身分差があるのなら養子先を用意して釣り合いが取れるようにしていく。


 そんな中でサトゥルヌス庶務に目を付けて、彼に問い掛けたのだ。

『公爵になる覚悟はあるか――?』

 その答えが今の彼だ。


 まだまだ付け焼刃だが、育てる余裕はある。やらかした殿下よりもよっぽどいい。

「比べるのも失礼だったわね」

「なんの話だ!!」

 文句をいまだに言おうとしている殿下を無視して、王家の影や公爵の密偵が集めた証拠を見せる。


「わたくしに冤罪を被せて婚約を破棄。生徒会の書類も偽造してまで」

 ゲーム通りと言えばそうかもしれない。だけど、わたくしの傍に常に王家の影が居るという事実を忘れていたことに頭が痛い。陛下や王太子殿下が頭を抱えて、非公式であるが頭を下げていた。


 もう関係ないが。


「卒業を待たずに受け入れてくれるそうですよ」

 良かったですねと告げると殿下が抵抗しようとするが、実は学園の平和を維持するために派遣されていた騎士がすぐに現れて殿下たちを連れて行く。


「――良かったのですか?」

「何が?」

 見送っていたサトゥルヌス庶務が口を開く。


「まあ、いろいろありますが、伯爵令息が公爵家の婿入りとか……お気に入りの生徒を婿候補に入れなかったのかとか」

 気付かれていたのか。相変わらず自己評価の低い婚約者に、

「推しは愛でるもので、傍に置きたいと思わないわ。それに」

 そっとネクタイを引っ張る。


 攻略されていく生徒会の面々の尻拭いをして高位貴族としての役目を果たそうと一杯一杯だった時に、

『副会長。こちらの仕事は俺でも出来ますよね』

 と庶務としてどこまで手を出していいのか迷いながらも当たり前にそばに居た。気が付いたら庶務以上の仕事をしていた。それが生徒会の義務だからと。


 学園は国の縮図だ。

 彼のような人物なら国を守れる。


 それに何よりもその優しさに心救われた。


「わたくしが選んだのよ」

 異論は許さない。


「何を言っているんですか」

 ネクタイを掴んでいる手をそっと彼は掴み、

「俺が選んだんですよ」

 最初の段階で断るつもりなら断れると選択肢を与えた。それを選んだのだと微笑むさまに、まだまだ公爵家には足りない感じだったがそれはここから教えればいいと微笑んだのだった。






推しは愛でる者。恋愛対象は育てるもの。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良いですね、こうサクサクっと進むお話は。 ヴィオレットも覚悟決めた庶務も格好良し。
[一言] そこで転生者毎年何人ぐらいいるのだろう。少なくても2人以上、しかも違う国にもありそう
[一言] 恋は落ちるもの。 愛は積み上げるもの。 人生は、共に歩むもの。
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