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20. 意外な申し出

 部屋の中央には、分厚いクッション素材を使用した、ベルベット張りのソファが配置されていた。長時間の話し合いでも快適に過ごせるように、店主がこだわったのだろう。


「どうぞ座ってください、ベルーシェ」


 ロウはシェリーに着席を勧めると、自身もローテーブルを挟んだ向かい側のソファに腰掛けた。彼は肘掛けに腕をのせ、脚を組む。


「もう少ししたら紅茶が運ばれてくるので、それまで世間話でもしましょうか」

「今日は時間に余裕があるの?」

「ええ、夜に予定が入ってるだけです」


 聞けば、ロウはガヴェルに会うため、すでに面会の約束を取り付けたらしい。シェリーは彼の仕事の速さに驚いた。


「ちなみに、ベルーシェはいつ帰国するんですか?」


 帰国日までに機会を設けてもらえるよう、交渉するとロウは言う。どれだけ親切なのだろう。仕事が早い上に、願ってもない申し出だ。

 シェリーは、返済期限日を帰国日と称してロウに告げた。

 その時ふと、昨夜のポリーの言葉が頭をよぎる。


(――思えば、彼も『私の理想に振り回されている人』のひとりだわ)


 今もまた、ためらいもなく頼ってしまった。自身の全てを偽りながら、この親切な青年を自分勝手に騙し続けている。シェリーはその事実を改めて意識し、背筋を伸ばした。


「ロウ、今日は遠慮せずになんでも話してね。たとえ私の手に負えないことでも、一緒に解決策を考えるから」

「……ベルーシェ」


 ロウも居住まいを正して、シェリーを見つめる。


「ありがとうございます。でも今日は、ボクの話というよりも、べルーシェのことを聞きたくてお誘いしたんです」


 どうやら予想とは違って相談ではなく、雑談が目的のようだ。シェリーとしてはどちらでも構わないが、賭けの結果として密室での雑談を望むのは少し意外に思った。


「私の話?」

「そう、例えば……あなたの大切な人についてとか」


 「大切な人」というのはトーナメントの夜に話した、ベルハルトのことだろう。それを未だに気にかけてくれていたとは。

 しかし現在シェリーが抱えているのは、あの時よりも深刻な悩みだ。本来の姿ならば、あるいは相談にのってもらったかもしれないが、ベルーシェの立場では吐露できない。今回もまた、内容を誤魔化さなければならないことに胸が痛む。これほど力になってくれる相手に、自分からはなにも返せないのがもどかしい。


「ごめんなさい……やっぱり、それに関しては説明できなくて」


 シェリーはうつむきながら、ロウに伝える。

 互いの間に沈黙が流れた。カーテンを引いた薄暗い室内で、オイルランプの灯りがゆらゆらと揺れる。


「――人質にとられているから、ですか?」


(……え?)


 聞き慣れない単語が耳に入った。シェリーは顔を上げて、ロウを見る。


「人質?」

「違いますか? 大切な人を人質にとられたか、弱みを握られたかと思っていたのですが」


 ロウは茶化すでもなく、真剣な瞳でシェリーの様子をうかがっている。

 予想もしていなかった方向に話が転がってしまった。一体、誰がなんの目的で、ベルーシェ相手にそんなことをするというのだろう。そもそも、ロウがその考えに至った経緯も思い浮かばない。

 シェリーは、戸惑いながらも口を開く。


「えっと……私には、なんの話かわからないのだけれど」

「この場所でも、本音を話すにはまだ不安ですか?」


 真実、心当たりがないのだが、話を誤魔化したと思われたようだ。いよいよ、わけがわからなくなる。

 このままでは押し問答が続くだけだろう。ロウの誤解を解くためにも、詳細を聞くべきだとシェリーは判断した。


「ロウは、なぜそんな話を? 人質だなんて普通の発想じゃないわ。なにか理由があるのなら、教えてくれないかしら」


 ロウはシェリーの質問に一旦口をつぐむと、ややあって言った。


「賭博場に出入りしているネバラ人の噂を聞いて、あなたこそがボクの探していた人物だとわかりました。――あなたは、とある人物と接触するために、この国に来たんですよね? まるで一般人のあなたがなぜその役目を負っているのか不思議でしたが、『大切な人』の話を聞いたときピンときたんです」


 シェリーは、どう相槌を打つべきか迷った。

 ベルーシェの姿が偽りである以上、ロウが探していたという人物とは確実に別人である。しかし今さら、自分はネバラ人ではないと正体を明かすこともできない。あくまでベルーシェは観光目的でこの国を訪れたのだと主張するしかないが、それをロウが納得してくれるかは怪しいところだ。


(そもそも、なぜその人を探しているのかしら。明らかに訳ありのようだし……)


 自分で言うのもなんだが、賭博場に出入りしているネバラ人などそうそういない。そのような人物を探しているというだけでも不審なのに、一個人の来国理由まで把握しているとは、ロウは一体何者なのだろう。よほど特別な事情でもあるのか、それとも――。

 シェリーが思考を整理していると、ロウが話を続けた。


「ボクは、あなたの味方です。絶対に悪いようにはしませんし、決して裏切ったりもしません。だから、お互い協力しませんか?」


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