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84話 ハビトゥエーション

「取り敢えず、店に入ろうか」


「はい」


 女性慣れへの第一歩。練習台にしてしまっているけど、彩梅ちゃんの真の目的に協力したいとは思っているので、それで許して欲しい。


 店に入ると、入り口のドアに付いていた鈴が緩やかに音を奏で、落ち着いた雰囲気のラウンジが出迎えた。


「……」


 いつもは飄々としていたり、明るく振舞っていたりする彩梅ちゃんが緊張しているのか、静かにしていた。


「お待たせしました、いらっしゃいませ。お客様は何名様でございますか?」


「2人で」


「承知いたしました。お席の方へご案内いたします」


 店に合った、落ち着いた雰囲気のウェイターに続いて、席へと向かう。


「ご注文が決まりましたらお呼びくださいませ。それではごゆっくりどうぞ」


 席に着き、ゆったりとした空間で向かいある2人の学生。まあ、俺たちのことなんだけど。俺も前に2、3度来たことがある程度だし、彼女は初めてだというし、この空気を何とかできる気はしない。2、3度来たことがあると言っても、家族での祝いの席で来たくらいだ。受験の合格とか、そんなので。


「センパイはどんなのを食べますか?」


「そうだな……晩飯があるから軽いモノが良いけど……」


 メニューを開いて見る。うん。学生にとってはどれもこれもお高めのモノばかりだ。


 軽食1つ頼むだけで、空腹時に学食で1食、飲み物、デザートまで頼めるほどだった。……暫くは趣味や服に小遣いを使えなくなってしまうのだろうなぁ。まぁ、いいけど。


「寒くなって来たし、暖かいものを頼もうかな。コレとか」


「あっ、いいですねぇ~……私も軽食程度に~……え? ひえっ……」


 彩芽ちゃんは共感して微笑み、メニューの品々に目を輝かせ、値段を見たのかその後直ぐに困惑を顔に表し、それから顔を青ざめさせていた。


 実と比べると、彩梅ちゃんはやっぱり表情に富んでいるように見える。


 実は元が男なのもあってクールとまではいかなくとも、やはり落ち着いているのだろう。家族内で彩梅ちゃんと2人となると、保護者としての立ち回りを求められることもあるだろうし。


「た、高い……でも、美味しそう……」


 色とりどりに変化するその表情を何も考えずに眺めてみる。


 普段意識したことないけど、彩梅ちゃんと実は似ているな。性格がまるで違うから今まで気が付かなかったけど、今、彩梅ちゃんがしている表情の陰影、その移り変わり方、動作の細かな仕草が実を彷彿とさせる。


「……? 何です? 私、何かしちゃいましたか? もしかしてメニュー選ぶの遅い……?」


「あ……いや、何でも。時間はあるから、ゆっくり選んでいいよ」


 っと、ボーっとしてしまっていた。俺と彩梅ちゃんはただの先輩後輩の関係でしかないが、2人で過ごしている最中に他の女性のことばかりを考えていてはいけないな。


 なるべく目の前にいる彼女のことを考え、彼女の方に向き、彼女の目を見て話すようにしよう。うん。


「ほへー……でもやっぱり高ーい……」


「……」


 やっぱり似てるなぁ……。


「うーん……」


「……」


「どうしよっかなー……」


「……」


「……えっと」


「……」


「せ、センパイ」


「ん? 何かな?」


「そこまで見られるとその……照れるというか。嫌ではないんですけど……えと」


「あ、あぁっ、ごっ、ゴメン。女の子をジロジロ見るのは良くなかったね」


「見ても良いんですけど……なんというか……私が緊張しない程度に……ほどほどで、お願いします……」


 後輩に委縮させてしまった。店に入ってから、何かと失敗している気がする。もっと気を引き締めないと、ダメだな。


 気を引き締めて、改めて彼女の方を見据えた。


「センパイ……、また、見過ぎです……」


 ……上手く行かないときって、基本何も上手く行かないよね。

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