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83話 プラクティス

 地方で開催される放送の秋の大会も終わり、晩秋から初冬へと変わりゆく頃。


「センパイ、ちょっと良いですか?」


 その大会の帰り道、彩梅ちゃんが話しかけてきた。


「何?」


「来週の土日……、いや、平日の放課後とかでも構わないんですけど、一緒に出掛けることって……、出来ますか?」


「良いけど……何かあるの?」


「あ、あー……、えっとー……、あっ。ま、前から気になっていたお店があるんですけど、1人で来るには少し抵抗があるというか、何と言うか……センパイが一緒に来てもらえると嬉しいなって」


「んんー……? そう?」


「……っ、はいっ!」


 彩梅ちゃんと一緒に出掛けるときはいつも何か要件が明確だった気がするけど、今回は少し不明瞭というか、何か別の思惑があるように感じられた。


 彼女の挙動から、その目的を忘れていたといった感じではなさそうだ。


「別に良いよ。いつ行く?」


 もし他に何か目的があって、自分の知らないところで何か重大な責任が生じるものとかだと困るけど、彩梅ちゃんはそんなことはしないだろうとは思うので、了承することにした。


 ストーカー被害に遭っているとかだったら別に相談するだろうし、何か事件性のあることに巻き込まれているようなことではなさそうだし。


「センパイの都合の良い日とかあります?」


「俺はいつでも良いけど……。もし早い方が良いなら明日でも良いし、1回の時間を長く取りたいなら土日のどっちでも良いし……」


「そうですか……。うーん……、じゃあ、明日にしましょう!」


「明日の放課後ね。分かった」


 こうして、俺と彩梅ちゃんは一緒に出掛けることとなった。


 勿論、実のことも気になったけど、ここでそのことを彩梅ちゃんに確認を取ることも無粋だと判断した。それに今、実と出掛けるとなったら対応がぎこちなくなってしまうだろうし、彩梅ちゃんが純粋に出掛けることを楽しみにしてくれているのなら悪いけど、この機会に素直に「女子慣れ」というものをしておこう。


 実のことを少なからず女子として意識してしまっている俺が女子慣れしていないということが俺と実の関係性を複雑にしてしまっている気がする。女子委員が多く在籍する放送委員に所属しているとはいえ、女子に対する耐性は残念ながらあるとは言えない。


 後ろめたさが多少あるが、彼女にも何か思うところというか、別の意図がある可能性が高いので、それもあまり気にしないでおこう。


 店に行くとの話だったので、少しばかし財布に入れるモノを入れて、明日に備えるか。


 そして迎えた次の日、の、放課後。


「お待たせいたしました! センパイ」


「別にそこまで待ってないよ。じゃ、行こうか」


「はいっ!」


 夏休みにも一緒に出掛けたことはあったけど、あれらはプライベートだったり唐突に出掛けることになっていたりで、今の状況と大分と違う。今回は事前に予定を組んで、互いに制服姿という、ある意味学生にとっての日常の中で行われているという意識が組み込まれている。そのためか、前に一緒に出掛けたときにと比べると、少しドキドキしている自分がいた。


 彩梅ちゃんにドキドキしている自分に少し驚いたが、それはそれとして「女性慣れ」という部分に於いては想像以上の効果が得られるのかも知れないと思った。


「ところで、行きたいお店って、どんなところ?」


 昨日聞きそびれたことを改めて聞いてみた。


「それは……このお店です」


 彼女が指差したお店とは、高校生が来るには少し値段設定がお高めの飲食店だった。


「あー……なるほど?」


 このお店なら確かに勇気はいるかも知れない。ドレスコードは無いとはいえ、同い年の友人と大人数で来るようなところでもないし、だからと言ってその友人の内の1人と来るにも気まずいだろうし。


 知り合いでもあって先輩である俺ならある程度リードしてくれると思ったのかも知れない。


 俺もこの手のお店は頻繁に来るわけではないからリードできるとも思わないけど。


 どうにもこうにも、緊張感が更に上がってしまうことには変わりない。俺の「女子慣れ」にもいい経験になるだろう。彼女の緊張をほぐし、俺の慣れの為にも、彼女をリードできるように頑張ろう。

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