82話+ 旬の過ぎた話
『それでは今日もありがとうございました!』
『また明日! さよならっ!』
お昼の放送も終わり、放送委員各自、休むなり教室に戻るなり、または食べかけの弁当を再び食べ始めるなど。最後のグループには俺も勿論含まれている。
「センパイのお弁当、今日はサクランボがあるんですね!」
そして残りの弁当を食していると、彩梅ちゃんがそれを指して話しかけてきた。
「家が飲食だから、それで余った食材とかが入れられてたりもするからね。サクランボもその内の1つだよ」
「こんなに沢山、豪勢で羨ましいです! サクランボって今、旬じゃないから高いですよね!?」
「あぁ……まぁ、うん……」
旬じゃないからそこまで美味しくは無いし、そもそもサクランボはそこまで好きではないけど。あと食材が豪勢でも家は別に金持ちではないから使えるお金は寧ろ同じ収入の家庭よりも少ないかもしれない。
「さてっと……、ん?」
「ジィ~~~……」
ご飯を食べ終わり、そのサクランボを食べようとすると、彩梅ちゃんがそれらを深く覗き込んできた。
「……いる?」
「い、いいんですか!?」
メチャクチャ目を輝かせている……。
いや、そんな目で見つめられると食べ辛いし。
「いいよ。俺もサクランボが特に好きって訳でもないから」
「ありがとうございます! それではお1つ……」
「どうぞ」
彩梅ちゃんに弁当を差し出し、彼女はサクランボを1つ茎ごと取っていった。
俺もサクランボを1つ食べるために、房から茎を1本離す。
「……」
「ん?」
デジャヴ。
彩梅ちゃんの反対方向に目を向けると、実がこちらをチラ見していた。
「……実もいる?」
「そんな……彩梅が1つ貰ったのに」
「そこまで俺はサクランボが好きって訳でもないし、こんだけあれば1つも2つも変わらないって」
「じゃあ……、私もお言葉に甘えて……」
そうして実もサクランボを1つ、持って行った。
3人してサクランボを食べる。
一応、放送室を見渡してみたが、この2人の他にサクランボを食べたがる委員はいなかった。
「そう言えばセンパイ」
1番先にサクランボを食べ始め、そして食べ終えた彩梅ちゃんが話しかけてきた。
因みに俺はまだ食べている途中だったので、首だけ傾げて声を出さずに反応する。
「サクランボの茎を舌で結べるかどうか~みたいな話がありましたけど、それってできます?」
その質問に、咀嚼を早めてサクランボの果実を呑み込んでから回答する。
「なんかあったねそう言う話。一応できるけど、できたら何なんだったっけアレ?」
「で、できるんですか!?」
「難しいみたいな話はあったけど、慣れればできるよ。してみようか?」
「みっ……、見てみたいです」
「じゃあ」
要望を受けて、先ほどまで食べていたサクランボの茎を口の中に戻して十数秒。
「はい」
「本当に出来てる……」
「蝶々結びとかも慣れたら出来るようになるよ?」
「……それって、センパイも出来るんですか?」
「まあ……余程調子が悪くなければ?」
「因みに、今、出来ます?」
「出来るんじゃない? じゃあ1回戻すね」
再び茎を口の中に戻して十数秒。
「ほら」
「スゴイ……ゴクッ」
心の底から凄いと感じたのか、彩梅ちゃんは感想を述べた後に喉まで鳴らしてしまっていた。
「彩梅ちゃんとか実も出来たりするの?」
「私は……茎を十字には出来ますけど、結ぶのは難しいですかね……アハハ」
「私の場合、十字にすることも出来ないくらい舌が不器用だね」
彩梅ちゃんは自分から話題を振って出来ないからか少し照れた様子で、実の方は話題に普通に乗って何も無げに返答した。
「へー……。ところで、さっき聞きそびれたけど、コレって出来たら何かあったんだっけ?」
「えっ……、えっとそれは……ハハハ、忘れてしまいました」
ど忘れしてしまってからか、彩梅ちゃんは言い淀んで気まずそうにしていた。
「実は?」
「ゴメン、私もその話は今知ったから、それがどういうものかはよく知らない」
この話自体結構前に流行った話だし、知らないのも仕方ないのかも知れない。他の委員の人も話に入って来ようとしないし、知らないのだろう。
「わ、私、この話を調べたら……また、その……言いに来ますね」
「分かった。ありがとう。……あっ、そう言えば」
「何です?」
「さっきの茎で結んでみるってやつ、メチャクチャ調子が良いときは2本使ってもやい結びとか二重もやい結びとかできるよ」
「ま、マジですか……もやい結びって確か、キャンプの時とかに使う、解けないようにする結び方でしたよね……って」
どの道サクランボを食べることに変わりないし、見せることになるだろうと思って、2つ目を口に入れて果実を食べて飲み込み、すぐさま手に持っていた1本も口の中に放り込んで再び結んだ。
「こんな感じ」
「あ、あぁ……スゴイ……デスネ……」
「……?」
先ほどと比べて、あまり反応が良くない。
「……」
一度周りを見渡してみると、残っていた委員長が少し頬を赤らめて、残りの事務仕事をこなしていた。
……あ。
少しはしたなかったかも知れない。異性の舌を見ることは人によっては不快に思うかも知れないし。考えなしだったか。
「あー……何かゴメン……?」
「い、いえ……大丈夫です」
「?」
大丈夫だと手を横に振る彩梅ちゃんと、特に何かを感じなかったのか、頭にハテナを浮かべていた実だった。実は元々男だったし、そういうのは意識しないのかも知れないな。
「……ったとき、楽しみにしています」
「え? 何て?」
「何でも無いですっ……! フフッ」
彩梅ちゃんが何かを言っていた気がするけど、はぐらかされてしまった。何を言っていたんだろう。
何か、気になるなぁ……。
正直、修学旅行後の話はこの話の前振りとして書いていた感はあります。




