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8話 転校生ではない

 連休明け初日、の、朝。


≪ピンポーン≫


 今日は俺が早く起きたらしいため、実の家に早速向かった。


 ……最近こっちから向こうの家に向かっていることが多い気がする。ま、対外的に見れば男と女となってしまっているため、女が男の家に出入りするよりかは女の家に男が行ってる方がマシかもしれない。少なくとも実の評判的に。本当にそうかは知らないけど。あと、俺の評判はどちらにせよ悪くなりそうだ。


『はーい』


「細染です」


『すぐ行くらしいですー』


「分かりました」


 本日もまた妹さんの声がインターホン越しに聞こえて来た。


ガチャ


「おはよーっす」


「うーい」


 実の状態こそ違えど、態度などは変わることなく、前と同じように通学することになった。


「スカートで出たのは初めてになんの?」


「そういや……そうだな、はぁ……」


「なんかゴメン……」


 実は本当に凹んだ顔をして落ち込んでいた。


 何か話題を変えよう。


「そう言えばなんでタイツなんだよ、暑くないの? もう5月だぜ?」


「……これ?」


「そう」


 実はスカートを少し持ち上げ、その脚を少し上げてタイツを見せた。


実はなぜかタイツを履いていた。今はそろそろ暑くなってくる5月、タイツを履いていたら暑くはないんだろうか? それなりに保温性が無いと、例え素足や短い靴下などよりマシでも冬になってそれを履くよりは、スラックスを履いている子がもっと多くても不思議ではないはずだ。


「これは……そうだな」


 実は周りを少し見まわしてから話した。


「脚のムダ毛処理が面倒で……」


「えぇ……」


 そんな理由かよ。


「暑くないの?」


「暑いけど、今くらいなら処理するのが面倒ってのが勝つかな」


 勝っちゃうんだ。今年は例年よりも暑いなんて話もあるらしいくらいには暑いが。学校の制服の衣替えは5月末から6月頭くらいになっているが、もうすでに半袖の生徒が殆どで、そうしている生徒に教師も特に何も言わないくらいには暑さが認知されているくらいなのに。


 だと言うのに実は脚はタイツ、シャツも長袖だ。と、いうことは腕の方もか。どれだけ面倒なんだよ。


 そんな話で実の機嫌を取り戻し、色々中身があったりなかったりする駄弁りをしながら登校していった。で、そうこうするうちに学校に到着していた。


「あ、俺、職員室で色々話とかあるっぽいから、ここで」


「分かった。じゃあな」


 1階の生徒玄関すぐの廊下を出たところで、実と別れて教室へと向かった。


「よう細染~」


「お、よう、船木。おはよー」


 自分の教室へ向かう途中の廊下、クラスメイトである船木と出くわした。


「細染お前、噂になってんぞー」


「……? 何が?」


「見かけない女子と登校してたって」


 話が回るのは早いな。事実は知っているが一応、噂の詳細くらいは聞いておこう。どんな尾ひれ背びれがついているのか興味ある。


「はー、そもそもそんなに有名じゃない俺が噂になるとはね。その女子って?」


「分からん。転校生って話もあるけど、それすら噂に過ぎねぇな」


「なんだよそれ……」


 少しくらい何かあるかと思ったが、そんなことはなかった。


「で、どうなんだよ」


「どうって……」


「実際は?」


「そうだな、女子……と、登校してきたのは事実だな」


「一度も浮いた話もないお前がどうしてだよ……」


「何故かは多分後で分かるんじゃねぇの?」


「どういう意味だ?」


「そのまんまの意味だ」


 教室に入るまで噂の何かが決するでもなく、教室に着き、朝の支度、授業の準備をし始める。


「細染ー、そういや松前はー? 休みー?」


「遅れて来るってー」


 朝のHRの準備をしていると、再び船木から質問が来た。実についての質問が俺に来るのが俺と実がセットで登校しているという印象が皆についていることが分かる。


キーン、コーン、カーン、コーン……


 そうこうしている間に朝のHRの時間がやってきた。


「細染ー、本当に松前来てんのかー?」


「来てるって、そんな変な嘘吐いてどうするよ? 第一、俺は実と登校してきたんだって」


「本当かー?」


 嘘は吐いていない。と、いうか、これから皆が見る光景が、嘘のようなものであるだけで。


「うーい、皆おはよー。静かにしろー。今日はちょっと朝から連絡することあるからー」


 教室に入ってきた担任が、出欠名簿の角で頭を掻きながら場を静めるよう促した。


「はい、静かになったな」


 担任は未だに騒ぐおちゃらけ連中を無視して言った。言われた連中は、その言葉で静かになるのがいつもの光景だ。


「説明しないといけないことがある。入れ」


 スタスタと教室に入って来る女生徒一人。


「転校生か?」


「でも机とかなくね?」


「顔はいいけど……どこかでみたような」


 他のクラスメイトもその女生徒について考えを巡らせている。


「私が言うより本人に言わせた方が早い。だからお前の名前と、何が起こったのかを軽く言ってくれ」


 担任はまたも名簿の角で頭を掻きながら言った。


「ハハハ……分かりました」


 女生徒は苦笑しながら了承し、そして教室は真な静寂が訪れた。


「えぇと……連休前まで生物学上男でした、松前実……です。連休の少し前から所謂TS病になって、登校する準備とかのために休んでました」


「「「……え?」」」


 教室中からどっと出た疑問符。その後に、再び静寂が訪れたかと思うと――


「「「っええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!??」」」


「……うるせ」


 驚愕の声が教室内に響き渡り、俺の鼓膜を衝撃で震わせていた。

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