74話+ 髪の艶/2in1
「ふぅ、あっつい」
実は小声でそう言って、まとめていた髪を解いた。
「……」
チラと脇見する。うーん……。
脳裏には川での出来事がフラッシュバックした映像が高速で流れていた。
……変なコト思い出してしまうなぁ。
「ん? 何?」
「実が髪下ろしているところって、あんまり見たことが無かったなって思って。イベントには関係ないよ」
「そか」
俺の視線に気が付いたのか、実がこちらに話し掛けてきた。
実もこの暑さに汗を掻いて来たのか、髪が照り返す舞台の光量が増して来ていた。
今の出し物は舞台音響が忙しいものではなく、またアナウンスも必要としないものであったため、することが無いからつい実の方を見てしまう。男装姿を試着の時はほぼ見てなかったし、ウェイターとして実際に動いている姿は全く見ていなかったし。
とはいえ、ちゃんと放送委員としての仕事をしないとな。
俺たちにとってはスキルを磨き試すことのできる実践の場の1つだけど、彼等にとってはかけがえのない青春の1ページだろうし。
……にしても、髪を下ろした実の姿は川での出来事を思い出すこと以外に、とても似合い過ぎているからどうにも目のやり場に困る感じがしてしまうな。視線の吸引力も高いからこそのジレンマだ。
―Minol Side―
何か視線を感じる、気がする。
この出し物は音響とか司会だとかのすることが少ないので、多少暇が出来て視線を移すというのも分かる。けど……まー君、ちょっとコッチ見すぎじゃない?
何かあるのかな……。
……もしかして、汗が気になる? それとも汗の臭いが気になる?
私にとってまー君の汗は良い匂いだと思っているけど、まー君の方は私の汗を不快に思っているのかも知れない……。
……と、改めて冷静にまー君の視線を見てみると、下ろした髪の方に向いている気がする。
髪、か……。
下ろした髪と言えば、川でのコトを思い出しちゃうなぁ……。
髪を見せただけで思い出して意識してもらえたら、なんて考えてしまうけど、そんなことをして振り向いてもらえるほど、簡単な話じゃないだろうなぁ……。
出し物の合間にそんなことを考えていると、出し物の終わりの時間となった。
「じゃ、俺行ってくる。後、頑張って」
「ありがとう。いってらっしゃい」
さて。ここからが問題。
「……お疲れ様です」
「……よろしくお願いします」
妹と2人、気まずい空気感を出しながら放送委員の役割を果たす。
「あのさー」
「……何?」
彩梅から話しかけてくることは珍しく、あるとしても文句や理不尽な言動であることが殆どであるため、少し身構えて受け答える。
「センパイのコト、私、本気で好きだから」
「……」
「だから中途半端な気持ちでセンパイと関わるの止めて。真っ向から向かって来るなら仕方ないけど、今の立場、一番邪魔でウザいから。じゃ、次の演目、始めましょう」
「……キュー出しはいらないから、舞台の音響を頼みます」
こんなに動揺を与えられて、ミスも無く放送席の運営を完遂したことを誰か褒めて欲しい。




