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74話 蒸し風呂体育館

 お待ちかね文化祭当日。いつもなら1限目が始まる時間にも関わらず、30℃に迫る勢いの温度だ。そして湿気も十二分にある。今日が俺たちの命日かも知れない。


「先輩、おはようございます。クラスの朝の事前準備があって、少し遅れました」


「おっはよー、細染君。別に良いよーそんなこと。その為に3年生がいるようなもんだし」


 体育館の舞台側最前列、体育館でやる出し物を見るには特等席とも言える席に座る。


「しっかし、毎度のことながら暑いですね」


「音が乗るから扇風機は向けられない。出来ることと言えば、冷感シートやスプレーで誤魔化しながら、機材用の冷却機を強めにしておくことぐらいだからね。残暑もあるわ、体育館だから湿気も籠るわ、文句言ってたらキリが無くなるよ」


「ですね」


 放送委員の仕事、その内の一つが「体育館で行われる出し物の為の音響管理」。パブリック・アドレス、PAなどと称される仕事だ。その他、出し物ではない外部進行の司会アナウンスなども務める。


 体育祭でも司会進行はするし、暑くもあるけど、自然と風が吹く屋外と湿気が籠る屋内だと、後者の方が辛い。という訳で、体育祭よりも文化祭の方が疲れる。司会進行以外にもやることあるし。


「それじゃ、出し物1つ目、やっていきますか。残りどれくらい?」


「あと30秒です」


「おっけ。キュー出しお願い」


「分かりました。ハウリングしないようにお願いしますよ」


「去年の失態を思い出させないでよ~」


「先輩の声は通り過ぎますからね。……そろそろです。5秒前、3、2、……、キュー」


 そして本格的に、俺たちの文化祭が始まる。


 体育館での演目は一部のクラスの出し物以外、クラブ活動の出し物や有志のグループが出演することになっている。


 1つの演目の時間は短くて15分、長くて1時間くらいのもので、大体のグループが15分から30分くらいの時間が割り当てられている。


「お疲れ様です」


 2、3本の出し物が終わったころ、後ろから声を掛けられた。


「お? ようイケメン、朝ぶりだな」


「……弄らないでよ」


「ゴメンって」


 そこに現れたのは、男装したままの実の姿だった。


 多少そのことを弄ってみるが、咎められてしまった。男だったときは、その弄りをしたら調子に乗った返しをしてくるようなヤツだったから、それと同じ感覚で接してみたものの、実はどうやら寧ろ怒りに触れた顔色を見せたようだった。


「そういうのはセクハラになるから気を付けようね~。じゃ、私は上がりだから松前ちゃんあとよろしく~」


「あ、お疲れ様でした」


「じゃね~」


 忠告を一つ残してから、先輩は手をヒラヒラ振って体育館を去っていった。


「まー君は次の出し物が終わったらクラスの方に行くんだっけ?」


「そ。で、俺の後釜は彩梅ちゃんだね、確か」


「そう、だね……うん」


 体育館内の暑さにやられたのか、実の声のトーンは徐々に落ちていった。


 俺も汗で肌も服もビショビショで、その姿も気持ち的に落ちる要因なのかもしれない。


 多少は話題を変えた方が良いのだろうか?


「クラスの方はどうだった? 去年みたいに変なヤツとか居た?」


「去年ほど変な人は居なかったかな……」


「多少は居たんだ」


「委員長と林さんが女の子の何人かから告白されてたかな……教室で」


 なんとも大胆な子たちだな。


「大声で教室中どころか廊下にまで聞こえそうなくらいの声で言ってて、その上注意されて逆ギレしてた人も居たね……」


「去年のとどっこいどっこいくらいだな……」


 チケット制とはいえ、色んな人が学校外から来る。変な人も集まってしまうんだろうな。


「その子が別クラスの子だったから、近くにいた生徒指導の先生にしょっ引かれてったね……」


「この学校の生徒かよ……」


 我が校の知りたくもない実態を知ってしまった。


「っと、そろそろ次の出し物の時間だな。実、キュー出し頼む」


「分かった。えぇっと、次の舞台マイクの音量がこれだから……」


 午前の部の折り返しまで来たけど、文化祭はまだまだ長い。

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