72話 散りぬるを
「もきゅもきゅ~」
彩梅ちゃんは笑顔で俺の焼きそばを再び頬張っていた。
結局俺は2度目の交換の要求に折れてブドウ飴と焼きそばを交換していた。
「甘い……」
先ほどチョコバナナを食べていたとはいえ、焼きそばの塩味との違いでより甘味を感じてしまっているせいか夕飯として食べている自分にとってはバランスが崩れる程の甘味に口腔内を支配されていた。……ちょっとだけ気持ち悪い。
「……」
「……何? どうかした?」
「いや、その……」
ブドウ飴を処理していると、実がこちらを向いて焼きそばや俺の顔を眺めていた。
「たこ焼き……いる?」
「いや別に――」
「そっか」
「……やっぱり貰おうかな」
「そう?」
松前家は悲しそうな顔をするのが上手いな。それらにほだされる自分も自分だけどさ。
ところで、漬けキュウリとブドウ飴しかなかった彩梅ちゃんは交換したがるのは分かるけど、実は何で交換を言い出したんだろう? それも交換そのものという訳じゃなくて、俺がたこ焼きを欲しているのかどうかを聞くような言い方だったし。
うーん……、分からん。まあ、良いけどさ。
取り敢えずたこ焼きを食べてみる。美味しい。
時間が経っていたため少々冷めていたけど、中身は舌が火傷しない程度には熱々で、丁度良いくらいの温度感だった。
「ありがとう。焼きそば、充分食べたと思ったら言って。互いに戻すからさ」
「うん……。まー君はたこ焼き、1個で十分なの?」
「そもそもたこ焼きの数が多くないからね。この1個で充分だよ」
「……そっか。……はい、戻す」
「良いの? 別に遠慮とかしなくても――」
「良いから。そっちこそ気にしないで」
「……分かった」
実は何を想ったのか、俺が食べ終わってから1口分食べてから戻してきた。実が思うたこ焼き1個分に抑えたのだろうか?
「「「ごちそうさまでした」」」
3人とも買った食べ物を食べ終え、食後の挨拶で締めた。
「この後はどうする?」
「適当にまた見て回ってから帰るとか?」
「そうですねー……ん?」
「彩梅ちゃん?」
「いや、何か……」
食後の予定を考えていると、彩梅ちゃんが考えている最中に何かに気づいたようで、周りを見回している。
「何か……音が聞こえるような……」
「森の方で?」
「はい……」
「うーん……」
去年の夏でこんなことがあったようなと、実の方を見てみる。
「「……あ」」
実もこちらの方を見たらしく、目線があってしまった。
「「……」」
去年の夏の“アレ”を思い出したような顔をしていたがその後、俺も思ったような「そんなはずないよね」というように苦笑していた。
「何でしょうかね……?」
「彩梅ちゃん、そんなに入ったら危ないよ。それに流石に虫も居るだろうし……」
「ちょ、ちょっと……」
木々の中に入って何かを見定めようとする彩梅ちゃんを追って俺と実の2人もその中に踏み込んだ。彩梅ちゃんは突然早足で行ってしまったため、見失わないようにこちらも急いで入り込んでしまった。
「彩梅ちゃん!」
「シーッ……」
何とか追いついて声を掛けて見るけれども、静寂促されてしまう。
暗くてよく分からないけど、心なしか彩梅ちゃんの顔は赤いように見えた。
嫌な予感はするけれども、目を凝らし、耳を澄ませて周囲を探る。すると……。
「――ッ!」
「……。……」
「♥……♥……」
嫌な予感が的中した。してしまった。
「……帰ろう」
「は、はひ……」
「……」
小声で促し、小声を返されて同意を得た。
実は終始無言のまま、一緒に撤退していったのだった。
……はぁ。彩梅ちゃんは兎も角として、それ以外の面子が全員同じというもの何か頭が痛くさせるような要因のような気もした。
そういった関係ないことを考えるようにして、この気まずさを振り切らせるようにしていたのだった。




