7話 通学復帰に向けて
≪ピンポーン≫
連休も終わる頃、再び松前家を訪れていた。
『はい』
「細染です」
『ほー……。分かりましたー』
通話に出たらしい妹さんが何かを分かったように家に上がることを良しとしたようだった。
アポは取っておらず、唐突に来たのだが、良かったのだろうか。そもそも実はいるのだろうか?
ガチャ
「どーもー、おはようございますー」
ツインテールをピコピコ振りながら顔をドアから出し、少し気だるそうに挨拶をして来た。
「おはようございまーす。……今、大丈夫なんですか?」
「ダイジョブですよー。あの兄だか姉だか分からない生物に御用ですよねー?」
「は、はぁ。そう、です」
「どぞー。部屋で待ってますよー」
妹さんにそう言われ、家に入れてもらい、実の部屋へと向かった。
因みに少ししどろもどろになってしまったのは、俺は妹さんのことが少しこう……苦手だからだ。苦手と言っても嫌いに通づる感情ではなくて、彼女に対してどう接したらいいか分からないような、困惑の感情が多く心を占めているからだ。会話の端々から伝わるかもしれないが、彼女はどことなくダウナー系不思議ちゃんっぽい感じがしている。そして見た目がかなり可愛い感じなので、男として少し意識して緊張してしまうところもある。それも友人である実の妹であるため、気まずさもあるためだ。
慣れたいもんだなと思いつつ、実の部屋の前まで着いた。
ガチャ
「失礼しまー……」
「え? あ」
今となっては異性同士、いくら妹さんにOKを貰ったからといって、扉をノックせずに入ったのは悪かったかも知れない。が、それはそれとして、実は既に“着替え終わっていた”ためノックしようがしまいが結果は変わらなかっただろう。
ドアを開けた先の部屋にいたのは、高校の制服を着た実の姿だった。そしてそれは、女性用のものだった。下半身の……所謂ボトムスは、ズボン代わりのスラックスではなく、スカートだった。
「……」
「……」
部屋に訪れる静寂。
「すいませんしたー」
「ちょっと待て」
「な、なんだよ」
あまりの絵面の衝撃に、部屋から出ようとしたとき、腕を掴まれた。
「まあ待て、これには訳がある」
「そりゃ女になったんだもんな、制服が変わっても変じゃない。ノックせずに部屋に入っちまってゴメンな。じゃ」
「だから待てって!」
謝って帰ろうと思ったが、それも許されなかったらしい。
「何だよ?」
「だから待てって」
「もう行こうとしてないだろ」
「えと……これは違うんだ」
「何が?」
「だから違うんだ」
「だから何がだよ……」
俺も部屋に入った時に混乱していたが、実はそれ以上に混乱していたようだ。
「えーっと……」
「取り敢えず深呼吸でもしてみたら?」
こうして、実の口から状況の説明が入った。
説明された内容は、至ってシンプルなものだった。
身体が女のモノになったのに合わせて制服を女生徒用のものにするという話があり、それが今朝早くに届いたらしい。そして先ほど開けて、下がスカートであることが分かった。本人はスラックス(ズボン)を希望していたらしいが、母親と妹が「スカートに慣れるために日ごろからそちらを履いていた方が良い」ということになり、変更もされないようだった。
欲しかったのなら私服同様、自腹だと。私服はまだしも、制服となれば高い。親御さんも結構なことをするもんだ。もとより連休明けももうすぐであるため、変更するかどうかについて、何か手違いがあったとしても暫くはその服で登校しなければならないとは思うが。
その二人の言葉に敗北し、サイズが合っているかどうか確認するために着替えた。そして姿見で確認し、改めて身体が女になってしまったのだという現実に打ちひしがれて呆然として立ち尽くしていたときに俺がドアを開けたのだったらしい。
「大変だな」
「本当にな」
座ってから話始めたが、緊張しすぎて実は最初、正座をして話していた。しかし今は足を崩し、胡坐を掻いて楽な姿勢で話していた。
「俺、思ったんだけどさ」
「……? 何だ?」
「俺ってお前のことを女として扱えばいいの? それとも今まで通り男として扱えばいいのか?」
何気に今まで疑問に思っていたことをぶつけてみた。
「そりゃ、今まで通りの扱いでいてくれよ。それで何も問題はないだろうよ」
「本当か……?」
「なんでさ?」
俺の疑問は二人っきりでいるときの話だけではない。例えば誰かに実のことを紹介するとき、「彼女は……」と説明するのか、「彼は……」と始めるのか、色々と話が変わってくる。あるていどカジュアルな感じで良い場面では「コイツは……」と、始めてもいいかもしれないが、学校関係の人だとか、畏まった方が良い場面もあるかも知れない。多分無い可能性の方が高いけど。
と、いうことを説明してみた。
「あ~……なるほどなぁ~……」
実は顎に手を当て、ほんの数秒程度考え、
「お堅い場面では面倒だから女として扱って、そうじゃない軽い……というか、普通の場面ではいつも通りに接してくれればいいんじゃないか?」
という感じで軽い感じに実の性別について扱うことになったのであった。