70話 両手に花
「どうしてこうなったんだ?」
誰に言うでもなく、敢えて言うのなら自分自身に問うている。
「センパ~イ、私たちに合わせて歩くの遅くしてもらってありがたいんですけど~、ちょっと遅すぎないですか~?」
「まー君、私ももうちょっと歩くの、遅くなくても大丈夫かな……」
俺の両手には艶やかな浴衣を着た2人の美少女。
正しく両手に花。
何故こうなったのかは2日前、前の大会から数日経った時。
『夏祭りどうする?』
そんなメッセージが、実から届けられた。
他の用事は特に無かったので、了承の返事をしようとした時だった。
『センパイと夏祭り行きたいです』
という、彩梅ちゃんからのメッセージが来てしまった。
2人同時にメッセージが来たけど、恐らく2人一緒に考えたわけではなさそうであったため、2人に「そっちの家で話して良い?」とメッセージを返して松前家へと向かった。
俺的には前、川で遊んだ後の実を誘わず彩梅ちゃんと遊びに行っていたある種の失敗を元にファインプレーを組み敷いたと思っていた。
しかし松前家に到着した時の空気というのは謎の緊張感に包まれ、彩梅ちゃんの目元はキツく、実は実でややゲンナリとした苦笑をしていた。具体的に何をかは分からないけど、明らかに何かをミスしたということは分かった。
張り詰めた空気の中で話し合いが行われ、結局のところ3人で夏祭りへと向かうことが決定したのだった。
「センパイ、あそこに射的ありますよっ! やりましょう、射的っ!」
「ちょっと待って、速い速い、両手ふさがってるから危ないって! 行くからもう少しゆっくり彩梅ちゃんっ!?」
「……っ」
「実!? はぐれないか心配なのは分かるけどちょっと痛いよ……。彩梅ちゃんやっぱりちょっとゆっくりでっ!」
2人の手の温度は高めなのか、こちらが照れて体温が高くなっているのがバレなくて済みそうだと内心思った。
2人とも浴衣がよく似合っているのは勿論、いつもと違う髪型が非日常感を重ねて心を更に弾ませる。
ツインテールの彩梅ちゃんは、耳の少し上あたりだったいつもの結び目を下にしておさげにしており、実はポニーテールの結び目の位置を変えて、サイドテールにしていた。
改めて思うが、いつもと違う服にいつもと髪型、どちらも通常では違和感があるものの、2人の可憐さをより際立てるという意味ではこれ以上ないくらい似合っていた。
「じゃあ、一番奥の一番大きいヤツを狙っちゃいましょうかね~」
「……私もやる」
「え? 実も?」
2人同時に手を放してしまったので少し手に寂しさを感じるが、それにしても手の自由を得られて多少ホッとするところだ。
「コルクを詰める前にこのレバーを引いて……」
「まー君はあの中に欲しいものとかある?」
「あ、俺?」
「うん」
マイペースに射的銃の扱い方を思い出している彩梅ちゃんとは対照的にこちらを真っ直ぐ見据えながら、実は俺の欲しいものが何かを聞いて来た。
「んー……特に欲しいのは無いけど……。持ちやすかったりカバンの中に入れても潰れたりしないような……中段にある菓子類とかがいいかな……?」
「任せろ」
実は短く返し、さっと準備して撃つ姿勢へと移った。
仕草も声も随分と女らしくなった実だけど、こういう人間としての芯と言えるような部分は変わらず格好いいところが残っているのだな、と思った。
2人と夏祭りについて話に家に行ったときはどうなることかと思ったものだけど、2人とも祭りに夢中になってくれて何とか悪い空気にならずに済んだ。




