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69話 ほどけ、ほつれる

『ドアが閉まります。ご注意ください』


 夏、2度目の大会が終わり、帰りの特急へ乗車した。


「……っ。ふぅー……」


 指定された席に座り、息を吐く。


 安堵というものよりかは、どちらかというと疲労と緊張、困惑によるものだろう。


「……」


 その理由というのは俺の隣に黙って座っている、松前実という人間だ。


 行きの時は妹の彩梅ちゃんが隣に座っていたのだが、何が理由か帰りは俺の隣に座ることはなかった。


 そして席に座っていると自然と隣に居たのは実だった。


「……」


「……」


 座って早数十分、何も喋ることなく時間が過ぎてしまっていた。


「「あのさ……、あっ」」


 いざ話し掛けようとすると、声が重なり更に気まずくなってしまう。


 そして更に数分の沈黙の後。


「……昨日話したことで気になったことがあってさ」


「え? うん」


 まずは話の手綱を取ることができた。


「俺が彩梅ちゃんの宿題を手伝うって話を実にした時、俺のことが嫌かどうか聞いて――」


「あ」


「ん?」


「いやっ何でもない」


 ……どうでもいいけど、松前家の人間って思わせぶりな声を出してから何でもないって言うの多くない?


「……まあいいや。それで、『嫌な訳じゃない』みたいな返しがあったと思うけど……、本当に俺のこと嫌っていた訳じゃないの?」


「それはそうだけど……それより、まー君の方こそ私を避けてたんじゃないの?」


「俺が実を? 何で?」


「いやその……川でのことで……」


「川って……前の大会の後の……?」


「うん……」


 話のポイントは思ったところだったけど、互いの認識に大きくズレがある気がする。


「“アレ”は……俺が悪くなかったか?」


「……? どうして?」


「いやそりゃその……実の身体を見て……大きくさせてしまったというか……」


「そんなこと?」


「そんなことって……嫌だろ、目の前であんなのなってたら……」


「まー君だって男なんだから、そんなこと起こり得るでしょ。私だって元々男なんだからそう言うこともあるって分かってるんだし、嫌になる理由なんて無いよ」


「そういうもの……なの?」


「寧ろ男同士でああだったら茶化してたか、逆に恐怖を覚えてたか、みたいな感じだったと思うし。今の状態は何というかこう……健全?って言うの? そんな感じ」


「そう、か……。あ、じゃあ実が俺のことを避けてると思った理由って何? 俺としては避けてる気なんかなかったし、何でそう感じたんだろう?」


 俺にとっての不安感が解消されたところで、実の考えについて問うてみる。


「うーん……」


 話す内容を考えているのか、それとも話すかどうかを考えているのか。実が唸ること数秒。


「うん、言うよ……」


 決心がついたのか、実は口を開いた。


「その……凝視しちゃって悪かったなって思って、その後に――」


「待って。凝視って、何を?」


「それは……まー君がその……大きくしてたのを……」


「そりゃ目の前で大きくしてたら見るでしょ。だって状況的に変だし」


「それも……そうだね……」


「そんなこと俺は気にしないから。続けて?」


「『気にしない』……」


「どしたの?」


「あぁ、いや、その、それで、その後にまー君が妹と遊びに行ったりしてて、何と言うか……仲間外れにされてるって感じたというか……避けられてたのかなって……」


「それは……何かゴメン」


 あの時はどんな経緯で彩梅ちゃんと2人で出掛けたんだっけ……。2人で行きたいって言われたんだっけ? それともはぐらかされた感じだったんだっけ……?


 彩梅ちゃんは彩梅ちゃんで家族と行きたくなかったのかもしれない。年頃の女の子だし。


「取り敢えず俺は実のことを避けてないし、そう思わせたなら悪かった。これから変な勘違いさせないように気を付ける」


「これは私の勘違いもあると思うから……と、兎に角、私の方もその……まー君が川で“ああ”なっちゃってたのも私も気にしないから。だからその……お、お互い、気を付けよう……?」


「ハハッ、なんだそれ」


「こ、こっちが気にしてるんだから、ふざけないでよー!」


「ゴメンって、ハハハ……」


 少し茶化したら、実が太ももをペチペチ叩いて来た。


 その後、声が大きくなってしまっていたらしく、先輩に注意されて、後は殆ど黙って席に座って過ごしていたのだった。

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