68話 そういうこともある
『佳作に選出された作品は、以下の通りです』
マイク越しでアナウンスされた作品群の中に、我が校の作品があった。
「優秀作品や最優秀作品は取れなかったか~……」
「昨年は佳作も取れなかったことを考えると、前進はしました。先輩の作品は確かに良い作品でしたよ」
「……ありがとう」
久保先輩の高校3年間のクリエイターとしての大会参加はこれが最後だ。
放送の大会自体は秋にも1つあるけど、久保先輩はその大会用の作品は用意していない。
「先輩、3年間お疲れ様でした」
「こちらこそ、手伝ってくれてありがとね」
「2学期もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
「ハハッ、1年から入って来た子たちに教えることなんて、もう殆ど無いよ」
「では、『殆ど』以外のことをお願いします」
「言うようになったねぇ」
軽口を返せるあたり、先輩もある程度さっぱりと受け止められているのかもしれない。そこまで先輩の心について、そこまで心配する必要は無いのかも。
「じゃ、帰りますか」
「お土産何買おっかな~」
俺もお土産、何を買おうかとこの土地の名産品を思い出す。この遠征の中で、実に対しての謝罪する機会のタイムリミットが迫っていることから現実逃避しながら。
―Minol Side―
「はぁ……」
大会参加最終日の夜となってしまった今、この間にまー君との話し合いは出来ないまま、思えば遠征の半分以上の時間が過ぎていた。
私の心のヘタレ度合いが嫌になる。それと妹と仲良くしているコトについての不快感から素直になれないという自覚があってしまうのも自己嫌悪してしまう起因になっている。
川での一件以来ずっと、まー君とは話し辛く、自分のことがだんだんと嫌いになっていってしまっている気がする。
こんなことではダメだと思ってはいるけど、中々踏ん切りがつかない。
自分が女になってから“こう”なのか、それとも元々からこんな性格だったのか。
少なくとも中学生のとき、女子に2回告白してその2回とも振られたけど、その時はこんなことはなく、比較的苦労なくコミュニケーションは取れていたはず。
これだけを考えるとTS化で……なんて考えてしまいそうだけど、前2回は“本当の恋じゃなかった”可能性がある。
兎にも角にもまー君を呼んだりして話がしたいけど、どう話をしたらいいのか……。
夏休みの宿題も、休み前と前の大会中に演習用の参考書をノートに書くタイプのヤツだとか、夏休み用に配られる問題集のモノは終わらせてしまい、それらは持って来ていない。夏休みの宿題で誘い出すのは無理がある。……ん?
他の方法を模索して考えていたところ、肩を叩かれた。
「あー……実、ちょっと話が……」
「まー、君……?」
話し掛けてくれたのは、意外にもまー君だった。
「大会の帰りの時に彩梅ちゃんが夏休みの宿題がまだ終わってないって言ってて、一緒に見たら……どうかなと思って」
マジかコイツ。
彩梅が何を求めてコイツと夏休みの宿題の手助けをしてもらいたいと言い出しているのかまるで分かってない。バレンタインの“アレ”の時点で察してはいたけどさ。
「……」
「あー……家族で仲がそこまで良くないことは知ってるけどさ、前の大会の時みたいにできないかな? ……それとも、俺のことが嫌?」
「嫌な訳ないっ!」
「そ、そう?」
「あっ……」
どうしようか考えて黙っている最中に出された質問に対して、反射的に答えてしまう。
「なら、他に何か問題が……?」
「いやその、えっと……無い……けど……」
「じゃあ、いいかな?」
「……うん」
どうにも回避する方法が思いつかず、まー君の提案を受け入れることとなってしまった。
「ジー……」
「ど、どうしたの彩梅ちゃん……?」
「何でも無いです」
「何でも無いならいいんだけど……何でそんなに俺と実を交互に睨みつけてるの……?」
「本当に何でも無いです」
結局その後、川でのことを謝ることもできず、妹には睨まれながら1日を終えることになってしまったのであった。




