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67話 カードキー

「いやー、楽しみですね」


「そうだね。あと飲み物は自分で飲みたいかな」


「ダメです!」


「悲しい」


 花火大会が終わって数日、毎年夏に地方で開催される全国糾合文化祭、通称全糾文の開催場所へと向かっていた。


 前回の列車は2×3列で3列側に俺と松前家で座っていたが、今回は2×2列であるため俺は彩梅ちゃんと並んで座っている。彩梅ちゃんが窓側で俺が廊下側。実は俺たちの席の後ろに座ったっぽいけど、どこに座っているかは分からない。ずっと彩梅ちゃんが俺に構ってくるためだ。少しも後ろに振り返らせてくれないほどだ。


 こういう時、修学旅行とか遠足だとかは大抵実と隣同士の席になることが多かったから2列席の隣が彩梅ちゃんというのは新鮮だった。


 川で遊んでいた時の最後の失態の件もあったから実と話してもう1度ちゃんと謝りたかったけど、その機会の1回目を失ってしまった。


 今回の大会はそこまで時間に余裕は無いからどうしようか……。晩飯の時に謝るか、帰路の時に謝るか。……どちらにしても、そこで謝り方をミスればその場の空気が最悪なモノになりそうだ。慎重に行こう。


―Minol Side―


「うーん……」


「どうしたの実ちゃん」


「いえ……」


 委員長の久保先輩が気に掛けて声を掛けてくれているが、正直彼女に頼んでも何かが変わるようなことはない。お心遣いはありがたいですができることは何もないです先輩。


 考え事のタネと言えば、斜め前の席に座る同校同年の男子生徒。勿論、まー君のことだ。


 一昨日からまー君と彩梅が仲良くしている気がする。


 川でのこともあったし、私とやや気まずい雰囲気になってしまったのはあるけど、ここまで露骨に距離を置かれると……ヘコむ。


 確かにまー君のアレがアレしてしまったところを凝視してしまったのはかなり問題かも知れない。それでも今までの間柄で、ここまで距離を置かれてしまうのかと思うと頭がクラクラしてくる。


 斜め前の席からは楽しそうな声。


 真横だとこっちも照れだとか気まずさだとかがあると思ってこんな位置をとってしまった私も相当ヘタレなところがあるとは思うけど、まー君もまー君で一度も後ろを振り返ったりしないのもどういうことなのかと思う。


 せめて何か反応があればこちらも改善点だとか、明確な問題点を洗い出せたりするかもしれないのに、それも出来そうにない。なのに、前の2人は楽しそう。


「ウギギギギギギギギ……」


「怖いよ実ちゃん」


 っと、見苦しい理不尽な感情を晒してしまった。冷静にならないと。


 ……冷静になったらなったで、本当はまー君はこんなTS野郎より元からちゃんとした女の子の方が良いんじゃないのかという考えが頭の中を巡った。


「……」


「かと言ってそんなにすぐに落ち込まれても逆に怖いよ実ちゃん……」


 私の心は晴れないまま、特急は目的地へと走っていった。


―Ayame Side―


 大会開催地に到着し、予約していた会場近くのホテルにチェックイン。


「……」


 ロビーでカギを受け取った私は、言葉を失っていた。


「センパ~イ! 話が違うじゃないですか~っ!?」


「俺は元々こうだと思ってたんだけど……」


 受付の人が渡してきたカギに部屋の電源に挿すためのアクセサリは付いてはおらず。


「カードキー……」


「割り箸買いに行ったとき言ったよね、俺?」


「パンチカード……」


「それは俺も意外だったけど……」


「センパ~イ……」


「そう言われても俺にはどうしようもできないって……」


 ここ数日、買い物に行ったり花火大会に一緒に行ったり、センパイとの距離をもっと近づけることができた。この大会でももっとセンパイと親しくなれれば……。


「……」


「ん? どうしたの彩梅ちゃん?」


「いえ、何でも」


 こちらが気になってチラチラ見ているくせに、こちらから視線を向けると顔をそらす姉よりも、もっと。

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