65話 インタラプター
「「ごちそうさまでした」」
昼食を食べ終え店を出る。
「で、買い残してるのは……」
「そうです。最初に言ってた花火大会の準備であるモノを残すだけです」
「それって?」
「着いてからのお楽しみ、というコトで」
そう言われ、腕を引かれて彩梅ちゃんにとっての目的地に向かうことになった。
「……どうでもいいっちゃ、いいけどさ」
「何です?」
「ちょっと歩きづらいんだけど……」
「こうしないとセンパイ逃げちゃうかもしれないじゃないですかー」
「逃げないよ?」
腕を引かれていたと思えば抱き着かれていた。何故。
そして手は絡めて握られていた。何故。
「やっぱり離さない? やっぱり歩きづらいし……人の目とかあるし……」
「センパイは私と仲良いことを他の人に知られると困るんですか……?」
「困りはしないけどさ……うん……」
周りの目も多少は気になるってのは本当だけど、最もな問題は彼女の胸が当たっていることだ。
春の大型連休で実と遊びに行った時の帰り、腕を抱き着かれたことがあったから多少慣れたものだけど、彩梅ちゃんは元から女の子だし、やはりそのことがあってか緊張してしまう。
彩梅ちゃんの胸が実並にあったならもろに顔に出ていたかもしれない。彩梅ちゃんも大きい方だと思うけど、無邪気に腕を抱き着くってことはおそらく自覚は無いんだろうな。
取り敢えず平常心は保てているので問題はないだろう。
「私が買いたかったのはコレです!」
腕を掴まれて連れて来られた場所は衣類売り場だった。
「……浴衣?」
「そうです! 花火と言えばコレでしょってコトで!」
それもそうだね。
……これもしかして、俺が彩梅ちゃんの浴衣の柄とか選ぶ感じ? いやいや、別にセンスが特段ある訳でもない俺にその手の話をしてくるなんて――
「センパイっ! センパイはどんな雰囲気の浴衣が好きですか?」
……なんで? 松前家の人間は俺に何の信頼があってそんなこと聞くの?
「俺、女子の服とか詳しくな」
「詳しくなくても男の人の感性で見て欲しいって思うんです」
「そう……なの……?」
「はい!」
「また何で? こういうのって女の子は女の子同士で聞き合ったりするものなんじゃないの? 俺でいいの?」
「センパイが良いですよ。センパイの好みで。女の子が選ぶ浴衣も良いですけど、男の人が選ぶ服も着てみたいんですよ。友達とかクラスメイトは花火大会彼氏連れで行くみたいで、付き合ってる人のいない私はセンパイと行きたいなーって思いまして」
「……え、俺と行くの?」
「行かないんですか? 私と一緒だと行きたくないですか? それとも花火大会自体に興味無いです?」
「別に予定は開いてるから誘われたら行くけど……俺なの? 何故に?」
「センパイともっと仲良くなりたいから……じゃ、ダメですか?」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
何故かいつの間にか俺の明日の予定が勝手に決まってしまっているのも疑問だけど、そこまでして俺と出掛けたいのはなんでだろう。近場に居て予定を入れやすくて男慣れするためのシミュレーションとかに良いんだろうか。うん、女の子の考えてることは分からん。
「……じゃ、そろそろセンパイの意見が聞きたいんですけど」
「あー……本当に見る目あるとは思わない方が……」
「私はセンパイの意見が欲しいので」
「そう……因みにどんな方向性のヤツが良いとかってあるの?」
「それはですねー……」
どうにかして彩梅ちゃんに似合う浴衣を提案し、それが選ばれたのだった。
「今日は付き合ってくれてありがとうございました。荷物まで持ってもらっちゃって……」
「いやいや。荷物持ちならいつでもするから、気になった時はいつでも頼めばいいよ」
「……っ、はい。ありがとうございます」
「それじゃ、また明日」
「また明日……用意が出来たら連絡しますね」
「それじゃ」
手を振り、身体を翻す。
「……ん?」
どこかからの視線を感じて、周りを見渡す。
「気のせいか」
ま、こんな住宅街で俺を見るようなヤツなんていないか。気のせい気のせい。




