64話 インターセプター
「はぁ……やっちまったなぁー……」
遅めの朝食をした後、「ごちそうさま」を言う前に出て来る言葉はこれだった。
昨日の川への遠出の最後、度重なるミスにより生まれた気まずさ。そしてそのリカバリーを完全に失敗してしまった。
何も無ければ次に会うのは8月頭の委員会の合宿、もとい大会になる。
せめて普通の友人としての距離感を取り戻したいけど……どうしよう……。
≪ピーンポーン≫
解決に悩む頭に響くインターホンの音。
荷物を頼んだ憶えは無いし、家族からもそのようなことは聞いてない。
果たしてこれは真の福音か、それとも終末のラッパか。ただ単純に忘れていた荷物なのか。
溜め息一つ、心の準備を整え、玄関のドアを開けた。
「おはようございます!」
そこに居たのは、意外の使者。
「早速ですが買い物に付き合ってください、センパイ!」
松前 彩梅、アイツの妹だった。
「なんでこうなってんの……」
「それはセンパイが私の要望に応じてくれたからじゃないですか」
「そうだっけ……? えっ、本当にそうだっけ?」
ここまでの道のりの記憶が全くなく、ショッピングモールの前にまで来てしまっていた。
ある記憶と言えば、玄関で滅茶苦茶押しに押されたような押し問答をしたような記憶だ。それを折れて来ることになったのなら、それは本当に「応じた」ことになるんだろうか?
「ところで、実はなんで来てないの?」
「“アレ”はまぁ……ネコみたいなモノなんで……」
「ネコ?」
「あぁいや、忘れて下さい。何でもないです」
「何が?」
松前家は「気にしないで」みたいなことをよく言うのは何なの? あとスッと真顔になるの止めて? メチャクチャ怖いんだけど。
「取り敢えず、体調不良みたいなものだと思っておいてください」
「あぁ、うん……うん? うぅん……」
理解はしてないけど、納得はしておいた。
「で、何買いに行くんだっけ?」
「次の大会のために、前の大会の時に欲しいなって思ったものと、明日のために少し」
「明日って、花火大会の?」
「そです」
「具体的には何を?」
「言わなくても分かってくれると思っていましたが、分かってくれないので売り場にいくまでのお楽しみとさせてもらいます」
「えぇ?」
花火大会に必要なモノって何? 虫刺され用のかゆみ止めとか?
「と、いう訳で、それ以外のモノを買いに行きたいと思います」
「は、はぁ……」
何もかもを理解しないまま、ショッピングモールの中に入ることになった。
「……って、なんで割り箸?」
「前回必要だったじゃないですかー」
「アレは電源がカギのアクセサリで挿し込んで入るタイプだったから通用しただけで、次の大会で泊まるところはそのタイプか分からないし……。というか、大体のところはカードキー挿し込むところが殆どだと思うけど……」
「私はカギのアクセサリで挿し込んで入るタイプだと信じて買います!」
「家に割り箸あるか確認した? あったら――」
「無いです!」
「あぁ、そう……」
終始彩梅ちゃんのペースに巻き込まれながら買い物をして、昼ご飯に丁度いい時間になった。
「お昼どうする? 花火大会の準備って言ってたヤツはまだ買ってないよね?」
「そうですねー……ソレはお昼を食べてからにしましょう」
「どこ行く?」
「センパイが行きたいところならどこでも良いですよ」
「じゃ、ゲストで」
「むー……」
「え、他が良い?」
「いや、別に良いですよ」
「そ、そう?」
ほんの少し不満気な顔をしたような気がしたけど、良いというのでその言葉に甘え、そのままファミレスへ行くことになったのだった。




