63話 恋人でも許可無くしたら嫌われる可能性の高い頭ポンポンアプローチを気安くするなって言ってんでしょうが!
さっきからなんか実がソワソワしてる。……ヤッベ、胸とかに目が行ってるのバレたか……? 言ったほど気にしてないってだけで、若干は飲み止しなのを気にしているってだけかも知れないけど……。
やっぱ下心アリで接するのは流石にマズいよな。下手したら足の怪我を気にするついでに見てたってのもバレてるかも知れないし。……実の足についてはちゃんと気にはしてたよ?
「……」
「……何?」
「あっ、いや、なんでもないっ……」
ボーっと考え事をしていると、実がこちらを見つめてくるのはやっぱりバレてるんだろうか。顔もまだ多少赤い気がするし。……それは熱中症か?
でもソワソワしているのは変わらないし、バレているのか?
「なぁ」
「何?」
話し掛けての反応は悪くない。少なくとも機嫌を損ねていたり、とんでもなく体調不良だったりということはなさそうだった。
「何か気になることとかある? 少し視線を感じるというか……見るなとは思ってないけど、こっちも気になって」
「ああぁー……えっと……まー君こそ、こっち、見てない?」
「見てるって?」
バレバレだったかも知んねぇ……。
「胸……とか……」
「あー、あぁー……」
あ、ガッツリバレてら。
「まあ、その、はいぃ……」
特に言い訳が思いつかなかったため、素直にゲロった。
「私も男だったから気持ちは分かるけど、あんまりずっと見られてるとその……緊張するというか……」
「ホンットゴメン!」
「ま、まぁ私は問題ないけど、他の子とかの前でそんなことしちゃダメだよ」
「はいっ! スミマセンッしたっ!」
「アハハ……最初から謝ってほしいなんて思ってないから別に良いって」
実には笑って流して貰えたけど、他の女子だったら社会的に抹殺されていたかもな……。マジで気を付けよう。
そもそも実は女性として見るとかなり魅力的だというのはあるから大丈夫だろう、とは思っているけれども。一流モデルかアイドル並の顔、グラドルなどにも負けないメリハリのある身体。思わず見てしまうが、見過ぎてしまうと局部の血圧が爆上がりしそうだ。落ち着いて血流を意識してないとマジでヤバいかも。川に足を入れてないと数分、いや数十秒も保たなかったな。
「えい」
「……?」
気を紛らわす為に実の頭に載っているタオルに手を乗せて。
「おりゃおりゃ」
「な、何……?」
タオルの上から実の髪をくしゃくしゃにしてみる。
「何でもない」
「えっ……?」
「足大丈夫そうなら、そろそろ帰ろっか」
これで精神を治めることができた。出来る限り落ち着いた風で帰りたいところだ。
「それはまぁ、いいけど……アレ?」
「ん? どうした? やっぱりまだ足痛む?」
「そうじゃなくて……髪留めの位置がこう……」
実はタオルの後ろから出ているポニーテールを気にしているようだった。
「度々スマン……」
「それも別に良いけど……またくくり直すと暑いし大変だしなー……」
実が考えるように天を仰いで数秒、目を開け、結論は出たようだった。
「帰りは髪、下ろしたままでいいや」
「そっか。じゃ、改めて帰ろ……」
言い終わる前に、目の前の光景が言葉を断った。
実が髪を伸ばし始めて、去年の秋、実が風邪を引いていた時以外に髪を下ろしたところをみたことが無かった。
改めて真正面からその姿を見る。
真に美少女だった。
目を奪われる、というのはこういうことなんだろうと呆けてしまった。
そして気が抜けてしまった。その結果、なんとか全身に回るようにしていた血流が1ヶ所に集中してしまった。
「……マジでゴメン」
「アハハ……謝らなくていいよ、うん……」
実のリフレッシュであることを念頭に気を付けていたけど、最後の最後で割と取り返しのつかないミスをしてしまったようだ。この後、実と一緒に帰った中で最も気まずい帰り道となっていしまったのだった。




