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61話 水面鏡

―Minol Side―


 あ~……メチャクチャ胸見てるね。男だもんね、仕方ないよね。


 他にも見ているところはあると思うけど、思ったよりも視線を感じる。いつもはそんなに気にしたことは無かったけど、今みたいに気になる様になってしまうとより感じているのかもしれない。体感5倍は視線を感じる。


 でもまぁ、正直あまり嫌な感じはしない。


 この手の視線が嫌なのって、「異性に見られている」ことじゃなくて、「知らない人にジロジロ見られている」ことが真に嫌なことなのかもしれない。確証はないけどっ。


「うーんっ、気持ちいい~~~!」


「あんまりはしゃぎすぎんなよ、こけたり足つったりしたら大変だぞ。川だし特に」


「流石に分かってるって! 小学生じゃないんだし!」


 夏の暑さに浸っていた、さっきまでの釣りの時間がこのためであったかのような冷たさ。


 制止する声に理解を示したようなことは言ったけど、心の底では久しぶりに水遊びすることに対する躍る胸を抑えられそうになかった。


「泳げないのが少し残念だなー」


「泳いだらいいじゃん」


「俺を死なせる気かよ!?」


 浅瀬は勿論、十二分に深さのあるところでは流速が速くて、とても泳げたものじゃない。泳いだら間違いなく溺れるし腰より上まで浸かるようなことはあまりしない。なのでこうやって水を浴びたり掛け合ったりするのがここでの遊びの定番だ。


「って言っても、こうして水浴びしたり周りの景色を楽しんだりするくらいしかないよなぁー……。子供のときみたいに水掛け合ったりしてもあんまり楽しく――」


「ていっ」


「ぶぼっ」


 心を読まれた上に小馬鹿にされたように感じたので、水を掛けてやった。


「ごほっごほっ!!!? なっ、何するんだよ!?」


「これからしようとしていた遊びを潰されたから……そいっ!」


「わ、悪かったって! だからちょっと待っ、1回最初からっ、わぷっ、本当にちょ……」


「おりゃおりゃおりゃぁ!」


「わっ、お前本当にっ、……やり返してやっからなァ……ッ!!!」


「そりゃっ! ……クュハッ!?」


 水を掛け続けていると、前のめりになってガードすることも避けようとすることも出来ずに真正面から反撃を食らってしまった。


 そうして応戦すること十数分。


「はぁ……はぁ……疲れた……」


「やっぱり……ぜぇ……素直に……はぁ……水浴びしとくだけで……ぜぇ……良かった……はぁ……」


 私の息に合わせて前後する胸をチラチラまー君が見てる。まぁ、こっちはまー君の裸の胸をガッツリ見てるからこちらの方がお得……なんて考えてる私は多分すごく疲れてるんだと思う。実際息の切れ方はまー君のそれよりも長く切らしてしまっているし。


「あの岩に座って……、休もっか……」


「うん……そう、だね……」


 遊びに夢中になっていつの間にか移動していて、今見ると水位が膝上のどころにまで来てしまっていた。流石に危ないのでもっと浅瀬の所で休むことにした。


「戻んのも気をつけろよ~、結構不安定だし今日の流れ速いし~……」


「分かってるって~……えっ? あぁっ!?」


「っと……。言ったそばからこけるなよ、それも背中から……」


「ゴメン……ありがと……」


 疲れていたのと、気が抜けていたのでこけてしまった。でも今はそんなことはどうでもよかった。細くなってしまった私の腕を、気持ち少し前よりも大きくなって筋肉質になったまー君の手によって掴まれてしまった。


「痛いとこ無い?」


「右足首痛めたっぽい……」


「あー……、歩ける? 肩貸すか?」


「えっと、その……」


 特に問題無いっちゃ無いけど、こここで役得ととか狙ってもいやそ、そんながっつくとすぐにバレ――


「歩けはしないけど触られるのは嫌みたいな感じ?」


「嫌じゃないけどっ!」


「じゃあ遠慮すんなって。ほら」


 そう言ってまー君はやや強引に掴んでいた腕を肩に回して空いている方の手で私の腰を添えるように優しく回り込ませ、しかし力強さを感じさせる形でしっかりと固定したようだった。


「しっかしお前、本当軽い……軽くなったよな」


 そう言って、位置を直すように厚い胸板の更に近くで固定され、頭が真っ白になりそうだった。


 耳鳴りを疑うほどの自分自身の胸の鼓動がどうか聞こえないように、との危機感だけが意識を現世に引き留めていた。

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