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55話 インターバル

「実、大丈夫かな……」


 実が熱中症で倒れ、宿泊施設に運んでから数時間。昼時になった。


「まぁ、大丈夫じゃないんですか? 見たところそこまで悪そうな状態じゃありませんでしたし」


 食券を食券入れに投げ入れる彩梅ちゃんは、本当に大丈夫だと思っているような顔をしていた。


「そうは言っても、意識失って倒れるって相当だと思うけど……」


「それは……はぁ」


「……途中で言うのを辞められると、メチャクチャ気になるんだけど?」


「いえ、何でもないです。気にしないでください」


「そう言われるともっと気になっちゃうな……」


「ダメです。センパイは特に」


「今日の彩梅ちゃんは特に辛辣じゃない……?」


「辛辣じゃないです。あと私がいつもセンパイに当たりが強いみたいに言わないでください。心外です」


「当たりはいつも強くない? 前々から思ってたけど」


「……えっ」


「ん?」


「そ、そんなに私、センパイに当たり強かったですか……? センパイ、結構敬語とか先輩後輩気にするタイプですか……?」


「いや、なんというか……そう言うのじゃなくて……なんだろう……うーん」


「……っ!」


 ……なんでこんなに何かを訴えるような、欲するような目線を送ってくるの?


「雰囲気?」


「酷いですセンパイ! そんな酷いコト言うなんて今後一生モテそうじゃないですねっ!」


「そういうところが当たり強いって俺から思われる原因じゃないかな?」


 閑話休題。


 俺たちが食堂の席に着いてから数分と待たず、実がここにやって来た。


「実、もう調子は大丈夫なのか?」


「えっ!? あっ、……うん、なんとか、平気……」


 実はうろたえた様子で、顔まで赤らめていた。……あ。


「ははは……はぁ……」


 赤い顔をしたかと思えば、青色に変わる実の顔色。


 ……やっちまったなぁ。実が気を失ったあとに失禁したこと、委員長から聞いてるっぽいなぁ、これ。そりゃあ、こんなに顔色がおめでたいことになってしまう訳だ。


 なんとかフォローしたいが、言葉が出てこない。その時に一番近くに居た人間だからこそ、どのように言葉を掛けたら良いのか分からない。もし俺があのエレベーターに一緒にいた彩梅ちゃんなら、何か言えるコトを持ち合わせていたのかも知れない。直接その目であれを確かめていた訳じゃないし、あと家族だし。


 俺が何を言ったとしても、今の実の心には傷をつけてしまうかもしれない。


 ……今は昼飯時だから失禁の話はこの状況も相まってしにくいし、夜。夜になったら、普通に話しかけてみよう。という、逃げの策。


 三十六計逃げるに如かず。今、実を見てもどうにもどこか落ち着いてないようだし、逃げるのもアリだろう。


 ご飯食べてしばらく忘れよっ。


―Minol Side―


 昼食時に互いに目線が合うたびに苦笑し合ってどうにも説明できず、いつの間にか夜になっていた。今は私とまー君、妹の彩梅の3人で宿泊施設の談話室みたいなところで夏休みの宿題をこなしているところ。


「……はぁ」


 時折、まー君が天を仰いでから溜め息を吐く。溜め息は小さなモノで、聞こえるかどうかもギリギリな、音量少なく短い息。そんな矮小なモノですら、私の心を不安一色に染め上げるには十分だった。そんなものを、染め上げられた色が褪せ始めたときに再びやって来るのだから、不安が更に深く、深く染まっていく。溜め息を聞くたびに身体のどこかが小さく痙攣しているのが自覚できてしまうほどだ。


「……ん」


 何回かあの動作を繰り返した後、これまた小さな頷きをして、宿題に向かっていたまー君はペンを止めた。


 そして、あまり聞きたくなかった言葉をまー君は口に出した。


「朝の、エレベーターでのコト……なんだけどさ」

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