5話 傍から見たら俗に言うデート
「はぁ……着いたな」
「そうだな。取り敢えず、飯食うか」
「そだな」
勉強が捗り、12時少し前に終わって着いたのは12時半頃だった。この調子なら後2日も必要なく、あと1日くらいで実の遅れも取り戻せそうだな。
「それにしても……」
「……なんだよ」
「いや……まあ」
実の恰好を見る。
「服、買いに来て良かったよな」
「そんなか?」
実の服装は家の中ならそこまで違和感は無かったけど、街に出てみると何かこう……“違う”。俺もファッションについては詳しくないし、「何がどう違うか」を聞かれるとよく分からないけど、やっぱり実が「男のファッションを基本として着ている服」と、街の女性が「自然に着ている男女共用っぽい服」の差は確かにある、ような気がする。
「……んなことより飯だ、飯」
元の性別が男かどうかは関係なく、ファッションセンスが無いと言われたように感じてか、少し機嫌を損ねてしまったかも知れない。
レストラン街
「で、どこにする?」
「この間、家族であきないスシベヱ行ったから、また別の所がいいかな」
「じゃあディナーズにするか?」
「あそこ高くない?」
「ダーイクンディは?」
「悪いけど、中華の口じゃないな」
「無難にマリヤーヌかゲストか?」
「安いしマリヤの方で」
……なんか今日は、店を決めるのに少し時間掛かったな。
ファミレス
「やっぱペペロンチーノだな。味覚も少し変わったけど美味いことに変わりはねぇわ」
「……」
顔も体格も女性そのものだが、食べ方は前のまま、男食いであるためなんとも言えない気持ちになった。
「実さ」
「んあ?」
「そんなに食えんの?」
実が今、食べているのはペペロンチーノ大盛(450円:税込)だ。因みに俺はハンバーグステーキ(400円:税込)を食べている。
そしてこの後、コイツはチョコレートケーキ(300円:税込)、俺はカスタードプリン(250円:税込)を控えている。
俺は以前と何も変わっていないから別に良いが、コイツは体が変わっている。それは胃も当然変わっている訳で。大きくなっていたのなら問題無い。しかし明らかに前の体格より小さくなっているので、もしかしたら大盛のパスタは腹に収まりきらないかもしらない。
体格を言葉で表すのは難しいので身長で言うと、男だった時の実は俺より少し高かったくらいだったが、今の実は俺より明らかに低い。こちらからの目線は必ず下になるくらいには。
「だいじょぶだいじょぶ。ペペロンチーノならすぐにペロリよ」
食べ始めはこうも言っていたが……。
数分後
「多い……」
「頼む前から言ってたんだけどな。今のお前には多いって」
「うぅ……。今の俺の胃がこんなに小さかったとは……。確かに前より満腹になるの早いなとは思ってたけど……」
なら普通のサイズでよかったろうに……。
「デザートもあるだろ。なんなら残りは貰おうか」
「すまん……」
ショッピングモール
「ぅぷ……」
「本当に大丈夫か……?」
「暫くしたら元に戻る……と、思う」
マジで大丈夫なんだろうか。コイツの腹もそうだけど、この“絵面”が。
今の状態を説明すると、「安いファミレスに女を連れてその女の顔を曇らせている男」というものだ。
クラスの誰かに見られでもしていたら、コトだな。
服売り場
さて、軽く歩いて腹ごなし。服屋に着くころには多少はマシな顔になっていて良かった。
「やっぱこういうヤツの方がいいよなー」
実はかなり無難な服を選んでいた。上着ばかりなのは、ズボンは既に持っている男物の裾上げをすれば使えるためだからだろうか。
選んでいるのは薄手のものばかりで、夏でも使えそうなものだった。
デザインも男性用でもありそうなものであるため、これなら高くな――。
「……えー」
素材が変わっている訳でも、デザインが凝っている訳でもない。布面積も男性用のものよりも小さいだろうに、値段はそこそこした。
「これでお願いします」
「はぁ……割としたな。ええっと」
たっか。俺が借りていた分の倍額を少し超える程度の金額だったな。別に良いけど。
これで友人のQOLが上がるなら、それでいい。先ほどまでなんとなく感じる程度に少し陰のあるような表情をされ続けているよりかは。