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51話 到着と夢

―Minol Side―


「はぁ~……やっと着いたな。長かった……」


 そうボヤくまー君の顔は、ただ移動して宿泊施設を探すこと以上に疲れている顔を見せていた。


「じゃ、荷物を整理したらラウンジに集合で」


「は~い」


 ……私とまー君以外に特にそんな話をしていないのにも関わらず、彩梅はさも当然と言いたげなまでに堂々と参加の声を上げていた。


 特にまー君の方も異論はないようでその後、ここのラウンジで3人、夏休みの宿題を普通にこなすことになったのだった。


 明日は火曜日、総合受付での登録と準々決勝の発表、そして通過作品の上映など。通過作品の上映は垂れ流しらしい。


 全国に通過した作品は映像・音声作品だけで、個人作品やプレゼンテーションは通っていないため、ここで改めて何かすることもないとのこと。


 取り敢えず今日は身体を休めて体調を元に戻して、明日視聴したりする作品をちゃんと見聞きできるようにしておこうっと。


 ………………。


 …………。


 ……。


 アレ? ええっとここは……どこだ? 学校? そうじゃないような、見覚えがあるような……。今はどうしたんだっけ、確か……学校……じゃなくて、そう、大会、大会だ。大会に来ていたはず。ということは、ここは会場だっけ?


 でもなんか、学校みたいな感じするけど……うーん? よく分からないなぁ。


 記憶があやふやだけど、体調はあまり優れなくて、取り敢えず大会の会場に着いたところまではなんとなく憶えてる。宿泊施設に行って……それから、どうしたんだっけ? うーん……。


「よっ、実」


「ま、まー君……?」


「どうしたんだ?」


「いやえぇっと……、なんだっけ?」


 一体何を疑問に思っていたんだっけ……?


「おいおい、実が分からなかったら誰が分かるんだよー」


「アハハ……本当に忘れちゃって……思い出せたらまた聞くよ」


「そっか」


 よく分からないけど、まー君の顔を見ていると、顔が熱くなって、脈が速くなってしまっているような……息もだんだん苦しくなってきたような気が……。


「ところで実」


「ん? 何?」


「ちょっと、こっち来て」


「あ……」


 まー君に強引に腕を掴まれ、人気のない道に引っ張られて連れ込まれてしまった。


「な、何?」


「おい」


 唐突にまー君の声と目つきが変わり、壁に追いやられた。腕ももう片方の腕まで掴まれ、まるで磔にでもされているかのよう。


「ほ、本当にな、何? ひ、人が、来ちゃう、って……」


 顔が近く、どうにも目線を合わせられず、目が泳いでしまう。


「……」


 まー君は何も言わない。ただその目は肉食獣のように何かを食らいつくさんとしているようだった。


 沈黙は続く。1秒にも満たないような、しかし数分以上だったような気もする。ただこちらからも何もいえず、硬直していた。


 しかしまー君は何かを決めたかのように動き出した。


「ちょっと、待――」


 何をしようとしたのか察せられ、止めようとしたが制止の言葉を全て言うことは叶えられなかった。


 まー君の太ももが、まるで私の身体を磔にする3本目の杭であるかのように、私の身体の下半身の正中線を固定する。両足の踵が浮き、つま先でなんとか立っている状態だ。


「おい、俺の女になれよ」


「そ、そんなコト……」


 こちらの柔い反発を完全に無視し、真剣な顔で、その輝いた唇を私の顔に近づけて――


 ………………。


 …………。


 ……。


 ピヨピヨ。チュンチュンチュン。


 仄かな朝の陽ざしに、小鳥のさえずり。


 夏の陽が薄いということは、かなり早い時間帯ということだろう。


「あっつ……」


 エアコンの方を見ると、稼働ランプは消えていた。


「……はぁ」


 自己嫌悪感と罪悪感が満ち満ちていたが、それを押し付ける理由が出来た安心感と、それすら責任転嫁だと冷静に自覚できる自分のことが更に嫌いになり、悲喜交々のため息が思わず出てしまった。

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