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50話 大会への道

「おはようございます」


 地方都市の中で、東京行きへの電車が出ている主要駅での現地集合。


「ええっと……うんうん。それじゃ、全員集まったことだし、行きますか、東京!」


 委員長である久保先輩の言葉で、俺たちにとっての大会が始まった。


 皆の私服が新鮮さを感じさせる。


 委員長他、半数ほどが前年に見たことがあったが、残り半数は新入生や今年から入って来た人たち、続けて委員をやっているけど前年の全国に来てない人など、また去年と見たことの無い私服も多い。新鮮みを感じる。


「はい、じゃあ、この車両の5番から7番までが指定された座席だから、そこに座ってねー。その列の中なら自由に座っていいからねー」


 久保先輩がそんなことを言いながら車両に乗り込んで行った。


「……で、なんでこうなってんの……?」


「「……ノリで?」」


 左右から姉妹でハモんな。


 俺の……俺“たち”の座席は3人座席で、窓側から、実、俺、彩梅ちゃんの順で座っていた。


 ノリというのはあまり分からないが、車両に乗る前に並んでいた順から流れでそうなったことを指すというのなら全く分からないということもない。


 けどやはり、こうなったのは何故だろう……。そもそもなんで俺を松前姉妹でサンドウィッチするような形で列をなしていたのに疑問が残る。……どうでもいいっちゃいいけど。


「あともう1つ聞きたいことがあるだけどさ」


「なんですかセンパイ?」


「……」


 両脇から、ほんの少しの圧を感じる。


「なんで手と腕を掴まれてんの?」


「……今日はちょっと調子悪くて……酔わないように?」


「そんな細かいこと気にしてちゃ、モテませんよ? センパイッ」


 俺の手を握る実の手の力が少し強くなり、腕は彩梅ちゃんの胸の中に更に深く沈んだ。


「これじゃ飲食もトイレも無理なんだけど……」


「センパイ、トイレに行きたくなったら行って下さいね! どきますんで!」


「それは良いんだ……。って、食べ物とか飲み物は!?」


「私があげちゃいます。ほいっと」


 彩梅ちゃんはそう言って、器用に片手で彼女が飲んでいたお茶が入っているペットボトルの蓋を開け、それを俺の口に――


「うぷっ、うぷぷぶぼぼぼぼぼぼ……」


「ちょっと角度が深すぎましたか?」


「っくひぃーーーっ……ケホッケホッ……。そういう、問題じゃなっケホッ」


「ワオ、口の端から垂れるお茶がセクシーですねセンパイ」


「彩梅、それは最悪溺れるからそういうのは――」


「そう、だから止め――」


「仰角を浅くしなさい」


「え……? 止めてはくれないんだ……?」


 そういう“ノリ”なの? 今は?


「は~い、センパイ、お菓子で~っす」


「普通に自分で食いたい……あむ」


 ……結局のところ、2人の手腕の檻からは逃れられず、長時間自分の意思を持って行えたことは目を開けるか閉じるかのどちらかであった。


「お飲み物はいかがですか~、お弁当はいかがですか~……、お飲み物はいかがですか~、お弁当はいかがですか~……、……ッ、お、お飲み物はいかがですか~……」


 乗務員さん、これだけ言いたい。見ないで。


―Minol Side―


 うぅ……調子が朝から良くない……。


 端的に表すと今の調子は中の下といったところだ。ギリギリ下の大区分には至ってないのが救いか。それはそれとして、それなりに調子が優れないのは確か。


 頭が痛いだの、お腹の調子が悪いだの、若しくは筋肉痛だとか、身体が怠いだとか、そういった明確にどこかが悪いという訳ではなく、全体的になんとなく、どことなく「調子が悪い」。


 その上、酔いやすい乗り物に乗っての長時間の移動。まあここまで揺れが少ないと大丈夫……だと思うけど。健康な時ならバスのタイヤの上の席とかでない限りそこまで酔うことは無い。でも今は調子が悪いため、少し酔ってしまっている可能性はある。まだ、大丈夫、胃液はまだ上がってきていない。


 思わずまー君の手を握ってしまったけど、その安心感もあって体調が優れないながらも安定はしている気がする。


 時々、本当にまー君が嫌がっていないかチラと脇見してしまう。


「センパ~イ、喉、乾きましたよね? またお茶をどうぞ!」


「だから飲み物はマジで自分で……むぐっ!」


 少し酔っているせいか、まー君の周りに星が飛んでいる気がする。更にまー君と妹のやり取りを見ているとほんの少し、チクリと胃に痛みを感じるような。


「……」


 その痛みが嘔吐感に変わる前に、思わず目を逸らしてしまった。


 乗り物に乗っているから輻輳して痛みが増えているんだろうと思う。着いて降りたら大丈夫なはず。でもどこか、この大会で何か、マズいコトが起こるのではないかと、漠然とした不安感が逸らす予感のようなものを感じていた。

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