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44話 「放送の大会って何すんの?」ってよく聞かれる

 大会当日。本日は曇天なり。


 最寄り駅から電車で揺られること小一時間。


「緊張してきた……」


「実の方がなんで緊張するんだよ……代表として出るの俺なのに……」


「なんかごめん……」


「本気で怒ってる訳じゃないから良いけど……」


 緊張するなぁ……。


 個人の部ほどでないにしても、大勢の前に出ることは、何度やっても慣れないな。


「自信はどのくらい?」


「全然。前の地方戦でも俺のよりも良い作品はそれなりにあったからね。これで勝てば全国大会だけど、正直、行けそうにはないかな?」


「そういうもんなの?」


「全国行けるかどうかの一戦だから、レベルの高い作品が勢ぞろいだからねー……」


「……そういうもんなのね」


 もうすぐ大会会場の最寄り駅に着く。揺られる車内で時折触れる実の肩の体温が、少しだけ自分の心に安定を与えていた。


「じゃ、ここで」


「後でまた」


 指定された部門の部屋の前で他の委員たちと別れ、発表の時となった。


「ありがとうございました。では次の作品です」


 そのアナウンスの言葉で、昨晩からの緊張がやっと緩和した。


「ふぅ~……」


 壇上から降り、下にある席に改めて座り直し、溜め息を一つ吐く。


「……さてと」


 昼になるまで、音声ドラマの作品を録音しつつ大会の作品を楽しんだのであった。


 そして昼。


「はーいお疲れー。午後も頑張ろうねー」


 委員長が集まった皆の注目をまとめ上げ、委員らが全員いるかどうかを確認していた。


「じゃ、午後の部始まる10分前にここにまた集合ってことで。解散!」


 その声と共に委員の皆は散って行ってしまった。


「そういえばまー君は何食べるか決めてた?」


「いんや。コンビニでおにぎりとかパンとか買って食べるか、どこかの店に入るのかすらも決めてないな」


「じゃあ、一緒に食べる? 周りのお店とか来る前にちょっとだけ調べてたし」


「おっけ」


 昼の予定は何も決めてなかったけど、驚くほど早くに決まってしまった。


「お2人でデートですか~? センパイ方~?」


 部屋を出ようとしたところ、後方から首を腕で掴まれた。


「あ、彩梅!?」


「彩梅ちゃん? 彩梅ちゃんは他の1年生とかとは行かないの?」


 驚きと疑問、それぞれの感情を抱く俺たち2人。


「いや~、仲良くしてる男女2人を見過ごすことが出来る訳ないじゃないですか~?」


「男女2人って……女の方は元々男の、ただの友人だろうに」


「ゆう……じん……」


「でも今は男女2人であることに違いはないじゃないですか?」


「それはそうだけど……なぁ?」


「ゆう……じん……え?」


「話聞いてる?」


「も、勿論! ファティマ第3の予言がTS病に関することで、ついでに第4、第5、6の予言があったって話だよね!」


「……聞いてないのは分かった」


「……」


 一体何年前に発表された情報だよ……。少なくとも10年以上前の出来事だったと思うが……。そしてなんで今?


「取り敢えず、彩梅ちゃんも来る?」


「はいっ! お供いたします!」


「実もそれでいい?」


「ああ、うん、それでいいけど……」


「美少女2人を侍らすなんて、センパイも両手に花でいい御身分ですねぇ」


「どこからツッコんでいいか分からない上に、滅多なコトいうんじゃないよ、彩梅ちゃん」


「ま、細かいコトはいいじゃないですかセンパイ?」


「細かくないし、あとなんで腕掴んでんの?」


「両手に花を再現してみました?」


「花側の人が1人で言っても再現でき……なんで実も腕掴んでんの?」


「……ダメ?」


 彩梅ちゃんが悪戯っぽく笑うのに対し、実は縋るように、それでいて少し何かに怒っているような雰囲気を漂わせてこちらを見つめていた。


「2人とも、変な噂が立ちそうだから止めよう?」


「嫌です!」


「……」


「いやマジで。不順異性交遊とかで放送委員に話とかきたら俺責任取れないって」


 実は何も言ってこないが、目で拒否を訴えてきていた。


「そうですか……じゃあ別のモノで許してあげます!」


「『別のモノ』って?」


「今日のお昼、食べるときに私が『あーん』して食べてくれたら腕絡めるのは止めてあげます」


「1回でなんとか……」


「んー……」


「ずっとやっていたら、どの道噂が立っちゃうって……。制服であんまり変なコト出来ないよ……」


「分かりました! その代わりに1回は絶対やってもらいますからね!」


「分かったよ……ん?」


 なんとか彩梅ちゃんを納得させたものの反対側の腕を引かれた。


「どうしたんだよ実?」


「ん」


「なんで……? まぁ、いいけどさ」


 何故か分からないけど、実にもすることになったようだった。

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