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42話 体育祭

 そして来た、2年目の体育祭……の前日。


 体育祭の準備があるため通常授業は午前まで。


 昼からは応援団所属は応援練習、委員会や生徒会などは予定の確認業務、その他はクラスの旗やグッズ作成の仕上げなど。


 俺たちは放送委員なので放送席のテント設営、そして生徒会などと合同しての予定確認をしている。


「音響チェックOK、撮影機材の準備もOK、朝礼台は開会式と閉会式は生徒会と教員らが使用してそれ以外は撮影機材を展開するので、まずはカメラとマイクスタンドの展開と片付けの確認からしまーす」


 順調に、滞りなく確認作業は進んでいく。


「ここの席って、こんな感じになってんだな」


「来たらそこまで面白いもんでもないだろ?」


「そうか? なんかちょっとドキドキして、楽しいかも」


「そか。じゃ、明日は大変だな」


「え?」


「放送するときはもっとドキドキするだろうし、慣れとかないとな」


「……そうだね」


「ま、場慣れだよ場慣れ。場に慣れればいつも通りに進行できるようになるさ」


 そうして迎えた体育祭当日。


『チームAとCが競り合っている! チームBもバトンミスからここまで追い上げて来た!』


「うぅ……、緊張する……」


 運動場に敷設されたスピーカーからの音が反響する放送席で、顔を青くしている女生徒が1人。その名は松前 実。


「ずっと言ってる、『練習は本番のように、本番は練習のように』、だ。もう1回深呼吸してみる?」


「そう言ってもさぁ!?」


「声を落として。マイクに入りそう」


「すいません……」


「そう落ち込んでる暇もないって。もうすぐ出番だし」


「マジで緊張してきた……」


「ほら、もう1回深呼吸してみたら?」


「分かった……。スゥゥー……ハァァー……スゥゥー……ハァァー……」


 実は目を伏して狭い放送席で腕を出来る限りで広げて呼吸を整えた。


「いけそう?」


「いけ……そう……かも……」


「……難しそう?」


「難しくは……あり、そう……」


 やっぱり、聴き方に注意しないと取りこぼしそうな感情はありそうだな。これからも気を付けないと。


「『本番は練習のように』の他に緊張をほぐす意識の仕方を1つ知ってるけど、聞く?」


「聞く……」


「『出来てる自分を演じてみる』って考え方なんだけど……」


「えぇっと……それは?」


「『出来てる自分を演じてみる』と緊張しなって、そのままの意味だよ」


「『出来てる自分を演じてみる』……演じるのも緊張しそうなんだけど……?」


「遊びや流し練習と考えてみるとか? ま、暗示まみれになると最終的に自分が何したいか忘れちゃうこともあるから、あんまり複雑に組み込まない方が良いかもしれないけどね。噛んでも謝ればいいって考えておくこととかでも良いかもしれないし。深く考えすぎても更に緊張するもとになるから、しっかり読んで伝えることだけ考えて、それ以外の失敗とか、そういうのはあんまり考えなくてもいいよ。ここで失敗する大抵のことは他の委員もフォローできるから」


「なるほど……ありがと」


「色々余計なこと言い過ぎたかもしれない……すぐに出番になるし、マジでゴメン!」


「肩の力抜けたから、別にいいよ。それより、本当にありがとうね」


「そっちこそ、気を遣ってもらって助かる」


「気なんか遣ってないから変な距離取るのやめてよ」


 そう言ってクスクスと小さく笑う実の表情を見て、本当に肩の力が抜けているように見えた。


『……以上でチーム対抗リレーはこれで終了です。次の競技は――』


「それじゃ、流す感じで、軽く“こなせば”いけるから」


「ん」


「じゃ、いってらっしゃい」


「……いってきます」


 そして、実最初のイベントでの実況が始まった。


「おつかれ、良かったよ」


「そうかなぁ……? 何回か噛んだし、1回めちゃくちゃ噛んだ気がするし……」


「体育祭はちゃんと進行出来てたから、そう落ち込むことも無いだろ。噛んだのは今後、噛まないように思い出して意識していけば良いだけだって。さ、とっとと昼飯食いに行こうぜ」


「……うん」


 体育祭は問題なく午前の部を終えた。そしてこのイベントが実に与えた影響は、少しの心の凹みと技能的な伸びしろを残したのだった。

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