36話 アベックのランデブー
さて、次の日の朝になった。
「財布と家の鍵は大丈夫……連絡も入れた、っと……これで大丈夫かな」
そして家を出る。
「お、返信来た」
何々……「あと5分くらいで出られます」か。ま、それくらいは良いか。まだ外に出て待っていても、暑さが気になるような季節じゃない。
そして5分経った。
ガチャ。
「おう、おはよう」
「お、おは、よう」
「どうした? 体調でも悪いか?」
「そんなことは、ないけど……」
「本当にどうした?」
顔は少し赤くなっており、返答も澱んでいた。そして人差し指で後れ毛というか、もみあげの毛をくるくると巻いていた。
「いや……完全にこっちだけの問題だから、気にしないで」
「はあ……分かったけど」
気になるなぁ。
「そういや」
「……何?」
「服のセンス上がってんな。やっぱ女物をある程度着ると、そういうのにも慣れてくんの?」
「そ、そうかな?」
「俺もファッションとかにはあんまり興味も知識も無いからよく分かんないけど、良いんじゃない?」
「あ、ありがとう」
「それじゃ、とっとと行きますか」
そしてショッピングモールへの歩みを始めた。
自転車に乗って移動しているときは移動時の口数が減ってしまうのはあるとは思うけど、徒歩での移動でアレほど喋らなかったのは稀だったな。
「じゃ、どこから行く?」
「1番大きい服屋からで良くない? 最初は。大抵の物は揃っていると思うし」
「そうだね」
到着してから早速、ショッピングモールで最も大きい大手の服屋に入ることになった。
「こんな服はどうかな?」
「んー、良いんじゃない?」
「……本当に良いと思ってる?」
「思ってるって。今の実の雰囲気に合ってる、……気がする」
「何かキレの悪い言い方だなぁ……」
「俺も女子の服装に詳しい訳じゃないから」
「私は、『まー君の』意見が聞きたいんだけど」
半歩詰め寄られて、凄まれた。
「『まー君から見て似合ってるかどうか』が、大事なんだから」
「うーん……、似合ってるよ」
「今の『うーん……』は何なんだよ」
「……吟味してた唸り?」
「何をどう吟味してたの?」
「完全に俺自身の感性で……似合ってるかどうかとか」
「そうなんだ……ふーん」
口から出た言葉はそれだけではあまり抑揚も無く感情はなさそうなものだったが、表情はなんとなく嬉しそうな感じで口角が上がっていた。
「じゃ、じゃあさ」
「次は何だ?」
「こっちとこっち……どっちが似合う?」
「ええ? そんなの自分で――」
「んん?」
っと、流石にこの言い方は拙かったか。
「ああええっと、……み」
ぎ……っと言うとしたが、ある考えが浮かぶ。
女子から服とかの2択を迫られたときって、自分の意見を言ってはいけないんじゃなかったっけ? いや、実は別にいいのか? どうなんだ、これは? 俺はどうしたらいい? というか、女子からこんな感じのことを聞かれたらどう言えばいいんだっけ? んんぇ……? そうか、こういうときは確か――
「どっちも似合うと思うけどなぁ、実はどっちがいいの?」
この言い方で良かったのだろうか? 考えている間にどれくらい時間が経っていたのか、時間感覚が確かではなかったために頭の中で出た返しをしてしまった。
「そっかー……」
……反応はあまり良くないか?
「向かって右側の方が良くない?」
「そう言われてみると……そうだな」
「よしっ、じゃあこれ買おっと」
実の顔色は明るくレジに向かって行った。どうやらそこまで間違えてはいなかったようだ。
「もう1つの方は良かったのか?」
「そっちも良かったけどね。そこまでお金がある訳じゃないから、なんとなくでこっちにしてみた」
「なるほどな」
そんなことを放しながら、次は俺の服を見てみることになった。
「ところで実は服を見る目も変わったのか? 身体が女に変わって」
「どうだろ……? 少なくとも身体が変わってすぐは感性とかはそんなに変わった感は無かったけど」
「じゃあさ、俺の服もテキトーに見繕ってみてよ。あまり高過ぎたら選び直しを頼むかも知れないけどさ」
「分かった。ちょっと待ってて」
そうして実が選んだ服はいつもの自分の服とは少し違う感じの服だった。
「思ったけど、コレ、実が男の時に選んだ服の比較が無いと意味無くね?」
「あ」
選んでくれた服は値段もデザインも良かったのでそれを買うことにしたが、昼頃になるまで暫く服を見て回ったのだった。




