33話+ 戯不図
+話にしてはなかなかに核心かもしれない。
―Minol Side―
ガチャ、バタン。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
あの場からダッシュで離脱し家まで帰ってきた。
何故あの場から逃げ出したくなったのか、それすら分からなかった。
ただ、あの場に居続けたら自分の情緒がとんでもなく不安定になってしまうことは分かった。
それが今の自分に、または今後の関係にとって最善であったかは分からない。寧ろ悪いような気もしないでもない。
「あ、姉貴おかえりー」
「あぁ、うん……」
息を整えていると彩梅と出くわした。何とタイミングの悪い……。
「何か顔赤いけど大丈夫?」
「ちょっと走って来ただけだから……」
「ふぅん……。あ、そういえば」
「何?」
「春から姉貴と同じ高校に通うことになったから」
「は」
「伝えただけ。じゃ」
「え? う、うん……」
そう言って彩梅は一瞥した後、1階のリビングへと向かって行った。
自室に戻って整理した後、リビングに降りると彩梅がいた。楽にしている様子を見ると、受験勉強からは解放されていたようだった。
「彩梅ってさー」
「ん-?」
「バレンタインにチョコ作ってたけどさー」
「んー」
「一番大きいヤツって増良に上げてたんだなー」
「ゴホッ!? ケホッ! ケホッ! な、何急に!?」
彩梅は全く想定していなかったのか、むせてから返事してきた。
「いや帰り道、バレンタインについて話すことがあってさ。義理チョコか友チョコみたいな小さいヤツじゃなくて大きいヤツを持っててさー」
「別に私が誰に渡そうと勝手じゃん!」
「……何、怒ってんの?」
普通に話していたつもりだったため、急な怒りに戸惑いを隠せなかった。
「変なコトをするなって言ってるようなもんでしょ! その言い方!」
「そんなことはなかったつもりだけど……そう聞こえる?」
「聞こえる!」
「そうかなぁ……? まぁ、そのつもりはなかったけどそう聞こえたならごめん」
「本当に“そんなつもりはなかった”って言ってるつもり?」
「え? そう、だけど……」
「私から見たらそうは見えないけどね」
「な、なんで……?」
やましいことはないはずなのに、何故か心拍数が上がっている。
「憶えてないの? 去年の秋、姉貴が風邪になってたとき」
「去年の秋? 風邪になってたときって……何が……」
「細染さんが姉貴に看病しに来てた時、滅茶苦茶甘えてたじゃん!」
「そ、そうだっけ……?」
正直言って憶えてない。看病しに来たこと、というエピソード自体は微かに憶えている。
「“あーん”してもらったり、タオルで身体を拭いてもらってたりしたじゃん」
「……あっ」
何か思い出した気がする。
「それにっ……、これ見よがしに私が細染さんに私が渡したんだって伝えてきてさぁっ! そう思わない方が変だよっ!」
「そう、かな……?」
「そうだよっ!」
「そう言われても私は……自覚、無いけど……」
「はぁ……」
何故か溜め息を吐かれてしまった。しかしこの空気の重さにツッコみを入れる余裕などは無かった。
「分かった。分かったから、私の邪魔はしないでね」
「う、うん……?」
戸惑ってこそいたけど、取り敢えず首を縦に振ってしまっていたのだった。




