32話 潜在意識
クリスマス・イブ。
どこぞの宗教の神の降誕を祝う日の前日。降誕を祝う日というのは誕生日ではないらしい。その上、イブという言葉に「前日」という意味はない。ややこしい。
「実はなんか予定とかあんの?」
「無い……けど。まー君はあるの?」
「いやないよ。学校の外周リレーイベントの準備は俺の所の委員会がやるし、それで疲れるから放課後もやろうと思ってることは何もないな。帰ったら宿題やって飯食って風呂入って寝る」
「へー……」
最近、実はこういうことあるよなー。話題を振ってきたり返してきたりしても、反応が薄いときが。
「……」
「……何?」
「あー、いや、何でもない」
実の顔を見ていると視線を気づかれてしまった。
気づかれるまでにその表情の奥にある悩みは見抜けなかった。だが明らかに何か落ち込んでいるような、気分が落ちているようなものが感じられた。
うーん……少しばかし気を持ち直すようなことでもするか。クリスマスや年末だから、という理由でもつけて。
と、いう訳で翌日。の、放課後。
「ほい、メリークリスマス」
「え?」
「最近何か知らんけど、落ち込んでたようだからさ」
「いや、そんなことは……」
「迷惑かなって思って話さないなら話して欲しいけど、別に話したくないなら話さなくていいよ。ま、無理すんなよ。高1の年末だし、気楽に行こうぜ」
「う、うん……」
実は何か気恥ずかしそうにして、ストレスを軽減することを謳ったチョコレートを受け取ったのだった。
そんなことがあったことも忘れていた1か月半ほど後のこと。
バレンタインデー。
先の宗教の界隈では複数の伝説の複合したものであるとされ、正式な祝日ではないとされる。これまた、ややこしい。
「今日は意外だったなー」
本命こそなかったが、こんなにチョコレートを貰ったのは初めてだ。手に持った袋を見て思う。
学校で貰った一番大きいチョコレートが俺の所の委員長……元委員長たる男の3年生なのは少し不服だったが。というかこんな時期にお菓子作りって、大学受験はいいのか。
そう思った帰り道、見覚えのある影があった。
「よっ」
「おう、実。さっきぶり」
「単刀直入だけど、これ、何だと思う?」
そう言って実はリボンのようなもので縛られた、くすんだ薄い色の袋に入った何かを持ち上げて言った。
「うーん、レトルトの味噌汁?」
「何でだよ。今日何の日だと思ってんだよ」
渾身のボケが真顔で否定されてしまった。悲しい。
「嘘々、分かってるって。ということは、チョコレート」
「半分正解」
「残り半分は味噌?」
「違う。1回味噌から離れろ」
真顔で否定されると傷つくぞ?
「じゃあ……なんだ?」
「正解はクッキーだな。毎年家族とかからチョコレート貰うって話だし、こういうのが良いと思って」
「おー、なるほど助かる。今年は家族以外からのチョコもあったからな」
「……は?」
「いや委員会仲間からのものがあったから。委員、俺と3年の元委員長以外女子って話、前にしたとおもうけど」
「はぁ」
「あ、その他は彩梅ちゃんからが1個だね」
「彩梅?」
「うん、毎年くれてるやつ」
「え? アイツ毎年渡してるの?」
「アレ? 実は聞いてないの?」
「聞いてないけど……」
「今年のヤツは何かいつもより少し大きくて……」
それを見せようと思い、袋の中をゴソゴソと手で探し回ってみる。
「えぇっとこれは……」
「何その大きさ……」
「あ、これはさっき言ってた元委員長のヤツ。彩梅ちゃんのは2番目……って言ってもこれと比べたらそこそこ小さいくらいのヤツで……」
間違えて委員長のものを出してしまったが、改めて彩梅ちゃんから貰ったものを袋から出した。
「え……?」
それを見ると実の顔は、困惑の色で満ちていたのだった。
クリスマス年末で1話、バレンタインで1話の想定だったんですが、クリスマス0.3話、バレンタイン0.7話+1話にすることにしました。




