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23話 思うけどコレ大概罰当たりだよね

 神社の脇から奥へ進んで行った実の後を追う。


「おーい、何か見つかったか――」


「シィーッ……」


 実は人差し指を立てて沈黙を促した。


「あれ……」


「あれって……」


「だから声落とせって」


 そう言われながら頭をグイと押さえつけられる。首が少し痛い。


 押さえつけられながらも見た木々の先には男性と女性が1人ずつ。


「誰か分かるか……?」


「男の方はアレ、河豚名だろ」


 河豚名(ふぐな)はこの祭りに実が誘った時に彼女と行くからと断ったヤツらしい。つまりいつも絡むメンバーの内の1人で、下の名前は樟利(くすとし)と言った。大抵チャラいヤツで、髪の毛を染めるためだけに水泳部に入った男だ。勿論、水泳部では幽霊部員らしい。


 つまり、こんな神社裏の暗がりにいる一緒の異性は……。


「おい、戻った方が――」


「女の方の顔が良く見えるくらいの位置まで進んでみるか」


「あ、おい」


 気づいているのかいないのか、実はそんなことを全く気にせずずんずんと更に木々の奥へと向かって行った。


「おい、戻った方が良いって」


「シィー……。話が聞こえないだろ」


「顔見るんじゃなかったのかよ」


「顔は分かる位置まで来た。別のクラスの林さんだ」


「分かったなら帰ろうぜ……」


「だからウルサいって」


「小声で喋るのも疲れるんだって、おい」


 俺の声も気にせず聞き耳を立てている実。


 呆れてその林さんとやらの顔を一度見てから引き戻そうと思った。見ると、その林さんとやらは顔を見ると誰かを思い出した。


 名を(はやし) 百合花(ゆりか)と言い、大人し目の印象を持つがよく見るとそこそこ美人であると、一部の男子の間から囁かれているらしい。


 正直、河豚名の彼女になっていたのは驚きだった。でも、大人しい感じの女子が正反対のタイプの男子を好きになることを考えれば当然っちゃ当然のような気もする。


「ほら、顔見たから。誰か分かったから。帰るぞ」


「いいから、もう少し何言ってるか聞こうぜ」


 大体分かるだろ、と言おうと思ったがここまで来たら実は頑固だ。今すぐ帰ることはもう諦め、一通り向こうの会話を聞いてみて、実が満足したと思ったら帰ろうと思った。


 と、いう訳で、俺も聞き耳を立てることにした。


「じゃあ……」


「やっぱりここじゃあ……」


 なんて声が聞こえてくる。


 まだ“コト”は始まっていなかったようだ。実は……まだ見たそうだなぁ……。もういいだろとは思う。バレたらそれだけでもとんでもなく気まずいし、これで俺たちが噂になったり向こうが分かれたりなんかしたら気まずいどころで済む話ではなくなってしまいそうだ。


「……2回目……ないって」


「いいだろ……思うと……するし」


 2回目でこれかよ、とも一瞬思ったがそれよりも今すぐここを去りたいという気持ちが勝ってしまう。


「おい、もういいだろ? 帰ろうぜ?」


「……」


「おいってば!」


 実は興奮というより好奇心に支配されたように固まってそちらを凝視していた。


「……♥……」


「♥……♥……」


 嗚呼、おっぱじめやがったよ……。


「本当にもう良いだろ? 戻ろう」


「……はぁ……はぁ……」


 大丈夫かコイツ?


 暗がりながらも実の顔が赤くなっていることは分かるし、呼吸音まで聞こえてきている。


 軽く腕を引っ張ってみても硬直したかのように動かない。こりゃダメかも知れん。


「…………はぁぁ…………はぁぁ…………」


 実の呼吸は更に深く長く、そして静かなものになっている。


 顔を覗き込んでみたが……、なんか、目が据わってない? 怖っ!?


「ちょっとコッチに……」


「え……?」


 これはもうダメだと感じ、無理やり実の腕を引っ張って神社の表側に連れ出した。


「増良……」


 神社の表側は裏側よりも多少明るいため、実の顔も良く見えるが、その瞳の瞳孔は開いていた。直前まであんな光景を見ていたからか、“その気”に当てられて正気では無いような雰囲気が出てきていた。


 本当、どうにかしないと。


 ふと荷物の中を思い出し、思いついた。


「ちょっと屈める?」


「こ、こう……?」


「そ、そんな感じ」


 実に屈むように促して、自分はカバンの中のお茶のフタを開けた。


 ――ビチャビチャビチャァアッ!!!!!


「!?!?!?!?!???」


 実は声にならない悲鳴のような声を上げ、戸惑い、こちらを見た。


 まあ、驚くだろうな。いきなり冷たいお茶を頭から掛けられたら。コレは祭りの中で買ったお茶だけど、買う前は氷水の中で保存されていたモノだ。多少時間が経ったとはいえ、未だに容器もそこそこ冷えているため、中身も冷たくはあるのだろう。


「頭は冷えたか?」


「おまっ……――っ!!!」


 俺の言葉に実は最初こそ怒気の篭った目を向けてきたが、途端に冷静になったのか、すぐにその顔は青ざめてしまった。


「……」


 実は何か落ち込んだように俯いてしまった。


「とりあえず、別に食べることができる場所に行くか」


「ウス……」


 恥ずかしいのか罪悪感に苛まれたのか精神が歩行能力に影響を与えてしまったのかフラフラな状態だったので、腕を引っ張りながら支えて神社を後にしたのだった。

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