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1話 ある高校生活の日で

 高校生となって、入学式に学力テスト、身体測定から部活紹介などのオリエンテーションなどを経て、生活も落ち着いてきて春の大型連休も近づく4月末。


 高校最初の中間考査や体育祭に備えて、若しくは五月病にならないように先んじてダラダラと過ごす期間となるまであと少し。数日すればそんな日になる平日のある日。


「ふぁ~……7時半か……」


 俺、細染(ほそそめ) 増良(ますよし)のいつもの起床の時間にしては少し遅い時間になっていた時計を見る。いつもは7時丁度から15分くらいに起きて来るけど、この時間に起きるのは本当に珍しい。


 何故珍しいのか。それは俺の幼馴染が関係している。俺の小学校からの同級生、松前(まつまえ) (みのる)という男だ。


 この男は隣家に住んでいて、同学年だから幼馴染となるのは必至だと言えた。で、それがなんで朝7時丁度ごろに起きることが当たり前になるのかというと、それは中学時代にまで遡る。


 小学校までは家の前で待ち、先に家を出ていた方が登校に遅れそうな時間になったらインターホンを押して確認する、と言った感じだった。


 それが中学になると、部活が始まり、二人とも朝練のある部活をするようになっていった。


 そしてその朝練の週の日程が互いに変わったものだった。俺の朝練は火金、実のは月木土に朝練があった。そのため、最初の頃は別々に起きて朝練に向かって言っていたのだが、小学校の頃と異なり慣れない時間で朝練に遅れることが多かったこと、それなのに朝練じゃない日に早く起きてしまったことが多々あったことから、いつしか「相手の朝練の日に早く起きたら相手を起こす」という暗黙の了解が出来、それでやっていたら朝練の日を間違えて起こすのを忘れてからは「早く起きた方がもう片方を起こす」という朝のルーチンになっていた。


 中学のときの朝練は7時起きよりも早かったが、俺が先に部活を辞め、実も高校受験のため3年の夏頃に辞めてからは7時頃起きになっていた。


 俺も実も同じ高校に進んだが、ほんの少し家を出る時間が早くなった程度で起きる時間が変わらなかったため、この平日の日課は続くこととなった。


「風邪か? ま、出たら分かるか」


 まだ寝ていたり、体調不良だったりしたのならまだこちらに起こして来ていないのも頷ける。


≪ピーンポーン≫


起きてすぐ着替え、パンを咥えながら松前家のインターホンを押した。


『はい』


「細染ですけど、実君は今日、学校に来ます?」


『あー……。今日アイツは休むみたいですー』


「そうですか。お大事にと伝えておいてください」


『分かりましたー。いってらっしゃいですー』


実の妹さんだろうか。言付けを預けてから学校に行くのであった。


同日 夕方


 放課後となっての帰り道。遊んだり勉強会を催したりといったことをしないとそこまで実の家に上がることはない。


 しかしながら今日は実が休んでいたので、授業やホームルームのプリントを届けるために自分の家に帰る歩みを3、4歩変えて、インターホンのボタンに人差し指を乗せた。


≪ピーンポーン≫


本日二度目のインターホン。


『はーい』


「細染です。実君のプリントもって来ました」


『分かりましたー。えぇっと……ミノ兄! どうすんのー?』


 インターホンから妹さんが実を呼ぶ声が聞こえてくる。


『分かったー! ……玄関まで兄が取りに行くみたいです』


 応え、待つこと十数秒。


ガチャ


玄関の戸から見えたのは、マスクをしてパーカーのフードを深く被った実だった。とはいえ、マスクとフードで当人かどうか見分けがつかないくらい顔は隠れていたが。


「うーっす。ほい、プリント」


「どうも」


「じゃあ俺はこれで――」


「ちょっと、中で話、いいか?」


「なんだよ?」


「うーん……相談、みたいな?」


「はぁ……分かった」


 体調不良だろうし、感染症なら移されたくないのもあって明日にしてもらおうかとも思ったが、なんとなく体調不良などとは違う、いつもと異なる雰囲気を漂わせていたため、了承することにした。


「身体はいいのか?」


「あー……それも含めて俺の部屋で言うわ。体調は大丈夫だから」


「へぇ。……つか、なんか今日、声高くない?」


「それも後」


 気になることの一切を断ち切られながら松前家の廊下を進む。そこまで色々なことを包含する話題ってなんだろう。


 その他のことを考える間もなく実の部屋に到着した。


「で、相談ってなんだよ」


「はぁ~……」


「?」


「すぅ~……」


「おい」


丸い座卓を囲んで座って、1分も経たないかくらいに待った頃、やっと実は深く被ったフードを取って、その口を開いた。


「今朝、起きたら、“こう”なってたんだ」


 俺の目に映ったのは、どこか実のような雰囲気を纏った「女」の顔だった。

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