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151話 FINAL LAP

「話が、あるんだ」


 ここから先は、もう止まらない。止まれない。この想いが結実するとしても、玉砕するとしても、俺はもう進むしか無い。


「……ッ」


 実は今度は逃げようとせず、ただこちらに意識を向けた。微かに何かの音が耳に届いたけど、目の前の実が少し恥ずかし気に口元を抑えていることから、緊張してか、喉が鳴ったのだと推測した。実もなんとなく、俺が言おうとしていることに気が付いているのかもしれない。


「そうだな……どこから話そうか」


「……」


 少しの逡巡の間も実は黙って聞いて、待っていてくれた。


「さっきも言ったように、友好関係に於いて大切で重要な存在ってことは変わらなかった。今もそう。でもその内容が少し変わっていったんだ」


「……うん」


「これは流石に分かるだろうけど、大きなきっかけは実がTS化したことだった」


 実はそれを聞くと何を考えているのか、そっぽを向いて黙っていた。


「最初は俺自身、俺たちの関係性はそこまで変わらないと思っていた」


「それは……うん。私も」


「……でも、時が経つにつれて、何もかもがゆっくりと変わっていった。最初、実は制服以外は男女共用の服ばっかり身に着けていたような気もするし、話し言葉もTS化する前とあまり変わりない感じだった」


「……うん」


 実は静かに首肯した。


「それが少しずつ、変わっていったよな」


「……」


「服装も口調もどっちも女子っぽくなっていったし、徐々に俺たちの距離感も詰まっていっていたな。アレは……冬で、雪が降った日だったけど、地面が滑るからって手を繋いだのって、アレより前に俺たちが手を繋いだのなんて、一体何年ぶりなんだろうなって。その頃から、なんとなく実のことを『女性』として認識することが多くなっていったな……」


 実は俯き、その表情は見えない。ただ、黙ったまま。


「新年が明けてからはそれ以上に距離が近づいたり、実のことを女性として意識する頻度が上がることはあまりなかったけど……。2年に入ってから……いや、その年のバレンタインデーあたりからもっと距離が詰まった気がするな。あの辺りから彩梅ちゃんと深く関わってきたのもあるっけ」


「……ん」


 相槌を打つ実は少し何か不満気な声色のように聞こえた。


「2年になってくると実はもっと女性っぽくなったし、彩梅ちゃんも何か……対抗心が燃えてたのか、距離感を詰められて、少し……いや、かなり困惑しちゃったよ」


「彩梅は……増良のこと、かなり気に入ってたみたいだからね」


 結局実は、彩梅ちゃんが俺に告白してきたことを知っているのだろうか?


「増良は……さ」


「うん?」


「もしも何か……“障害”というか、“他に気になるコト”がなかったら、彩梅と付き合ってた?」


「それは……」


 この聞き方は……。


「分からん。……けど、そうだな。その上でもっと仲良くなってたなら、その可能性もあったのかもなって。今言うことじゃない気もするけど」


「私から聞いたから、良いよ」


 一度振り向いてそう言った実の口は、寂しさを感じさせた。


「話は戻すけど……そうだな。夏になって、水着だとか、浴衣だとか、時間が経ちつつ色々な服装を見るとただの『女性』としてだけじゃなくて、かなり綺麗だなって……思っちゃってさ。俺としては、本当に親友のままでありたいと思っていたはずなんだけど……」


 実がある程度女性らしくなっても、親友、友人としての付き合いという観点は忘れなかった。でも夏を過ぎてからその観点すら俺は揺らいでしまっていた。


「秋から冬にかけて考えとか、色々とすれ違うこともあって、実とあまり話さないことが増えてからまた実のことをもっと考えるようになってさ」


「増良も、そうだったんだ……」


「……2人とも似たようなことを考えてたなら、もっと話せば良かったなって今は思うよ」


「今だから言えるコトだね……ハハ」


 少し話が重くなりそうだったのが実のフォローもあって、なんとか明るさを保つことができていた。


「3年生になって、将来のこととかもっと具体的に考えるようになってさ、俺たちの関係は進学してまたふんわりと普通の友人としての関係に戻るんじゃないかみたいなことも考えてた」


「……」


 実はただ俯いたようにも見えたし、首を縦に振ったようにも見えた。先ほどまでならそれがどちらなのかが気になって不安感があったが、今となってはそれは重要でないとも思えた。


「でも最近、前みたいに……もしかしたら前以上に実と一緒に出掛けたりするようになって、『普通の友達に戻る』以外の選択肢を取ることに、後悔したくないって思うようになった。だから今、伝えたいことを、実に伝えたいと……思う」


「……ッ」


 実の喉が、鳴った気がした。


「実、俺は――」

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