150話 STAY OUT
「ごっ、ゴメン!」
「実!?」
俺が実に俺の思いを伝えようとしたところ、実は唐突に頭を下げ、走って逃げだした。
あまりに突然のことだったのでワンテンポ遅れてしまったが、実の後を追って俺も駆け出した。
「どこ行ったんだアイツ……」
実は人混みの中に入っていってしまった為、すぐに見失ってしまった。
「実……何も起きてないと良いけど……」
あの様子だと実の心は今、不安定なんだろうし、こうも人が多いとそういう人を狙ったナンパとかに纏わりつかれるかもしれない。この辺りは治安が飛びぬけて悪い訳でもないけど、良いという訳でもないし。
しっかし、どこに向かうのだろうか。
一旦冷静に考えて、実がどこに行きそうかを考える。
あの様子だと十中八九、実は家に帰ろうとするはず。とすれば、駅に向かうのは必至。
そして俺が見失うように迂回したりするとすれば……。
「はぁ……」
予想を立てた場所に向かってみれば、人通りの少ない広場で実は一人、溜め息を吐いて佇んでいた。
「実!」
その姿を見ると思わず声を上げてしまった。
「……っ!」
実はこちらの方を見るや否や、すぐさまこの場から離れようとした。
「待てって!」
「!?」
逃げないようにと腕を掴むと驚きと共に恐怖のような表情をこちらに向けてきた。恐怖心を与えてしまったことに心を締め付けられながら、今はその心に蓋をして伝えるべきことを心内で整理。そして息を整えて、真っ直ぐと、顔を正面に迎えた。
「……離してよ」
「離さない」
「何で……」
「さっきの話の……続きをしたいから」
実が逃げるために入れていた腕の力を緩めた。
「離して……」
「話の続きをするまで、離すつもりは」
「逃げたりしない、から……ちょっと痛いし……」
「……分かった」
ゆっくりと指と腕から力を抜いて、実を解放した。
「……」
強引な手段を取ったことに対して怒っているのか、実は俺に掴まれていた腕をさすって、目は伏しがちに、そして頬は少し紅潮させてこちらを見てきた。
「無理やり話の場に持って来させたのは謝る。でもやっぱり、この話はちゃんとしないといけないと思って」
「別にそれは……怒ってないけど」
やはり、真意は読めない。その言葉を言葉通りに受け取って良いのかさえ、今の俺には分からない。
「私も変な質問して、そのくせ勝手に逃げたのは謝る……けど……いや、いい……」
何かを言い掛けた実の顔は、ただこの状況を嫌そうな……というよりは、何かを諦めたような表情をしていた。
「じゃあ、改めて……」
深呼吸をして、最後に心と息の整理を。
「さっき実は、俺にとっての実が、『どう』いう存在だと思っているのか、って聞いたよな」
「……うん」
まずは先ほど俺が実に伝えたかった、基本的なコトを伝えよう。
「最初に言っておくのは、初めて会ってから今まで俺にとっての実は、俺の友好関係の中で、必要で重要な存在だよ」
「……ありがとう」
面と向かってこんなことを言うのは少し気恥ずかしいけど、これは言わないといけない、重要なことだ。
そして実に一番伝えたいコトは、これ以上に恥ずかしいと言うか、度胸のいるモノであるので、この程度で躊躇って等いられなかった。
「そういう実はどうだ?」
「それは……勿論、大切だよ」
「その割にさっきは逃げられたけど?」
「それは……増良は悪くないから、気にしないでほしいと言うか……“アレ”は本当に、私が一方的に悪いし、嫌になったとかってコトじゃ、ないから……」
「……そうか」
少し意地悪なツッコミを入れてみたが、どうやら俺が失言失態を犯したという訳ではなく、最たる原因ではなかったようだ。少し茶化したような聞き方をしたのに、真面目に答えてられてしまって、多少の罪悪感。
「……」
「……」
そして訪れる静寂。
実は何かを言いたげなようでも、俺の口から何かを言って欲し気でもあるような表情でこちらを見ている。
心の中でふぅと一息。覚悟を決めた。
「実」
「……?」
「話が、あるんだ」




