148話 OVER TAKE
「おう……それに限らないけど、他に体調が悪くなったり、違和感があったら言ってくれよ」
「ありがと」
そこから再びショッピングモールでウィンドウショッピングをするなどしながら実の体調を伺っていたけど、そこまで問題は無さそうだった。
ただ、実を見続けていたことで少々困ったことがあった。
「……どうかした?」
「いや、なんでも?」
実を見続けるとその魅力に改めて気付き、頭の先からつま先まで、じっと見てしまうことが1つ。
そしてあまりに実を見続けてしまい、変に実に気付かれ不審に思われてしまうことが更に1つ。
今朝会った時にフリーズしてしまったという程の破壊力があったのを思い出す。改めて見て、その良さを再認識させられた。
まず、スタイルが良い。細くも出るところは出ている体形。そしてその体形や雰囲気に合った服。白い首筋に映える、鮮やかな紅いレザーのベルト型のチョーカー。肩にかかるほどの下ろした緑の黒髪と、それを一点、目を引く三つ編みが揺れる。そして言わずもがな、整った可愛らしい顔立ち。
朝に感想を求められたときにはテンパってしまって単調な感想しかでなかったけど、今ならスラスラと言葉が出てくるだろうな。あの時は初見の衝撃と、その後すぐに「どう?」と聞かれて混乱に混乱を重ね掛けしてしまったようだったし。
実の体調が問題無さそうということ、実の姿があまりに眩しかったというのがあって、少し視線を空に移した。陽が傾き、空に朱が差しかかっている。
「「――」」
「あれ? 増良君じゃん」
2人がそれぞれ何かを口にし掛けたそのとき、この空気に誰かが水を差した。
「えっと……あなたは……?」
「『あなたは……?』だって!」
何かよく知らないギャルみたいな女子に絡まれた。
「覚えてない? ウチ、ウチ!」
「マジで分からん……」
「中学で一緒だったじゃん!」
「そろそろ、誰だか教えてもらって良いですか?」
「……」
少なくとも、中学にこんなハイテンションは女子と知り合いだった記憶はあまりない。クラスメイトにはいたかも知れないけど。
実は実で、突然知らない女子が実の方には目もくれずに2人の間に割って入って来たのがそれなりに気になるようで、ギャルっぽい女子が話しかけてきてからずっとジト目をこちらに向けてきている。
「ウチだって、中2の時のクラスメイト、熊手 香莉奈! 覚えてない?」
「あ、あー……? そうかも?」
いたと言われればいた気がするし、いなかったと言われればいなかった気がする。けど、いきなり名前を呼ばれたし、きっとそうなのだろう。
「にしても、その熊手が何で俺に? 他に何か一緒だったりしたっけ?」
「いや別に? 中2の時にクラスが一緒だっただけだよ?」
「そ、そうですか……」
どおりで実も何も言ってこない訳だ。中学2年のときは実と俺は別のクラスだったし、何かのエピソードで言い返したりもしない。……ただ、TSしたことを隠すために言い出してないだけかも知れないけど。
「うーん……その子って、彼女?」
「いやー、そういうのじゃないよ。今の学校のクラスメイト」
「……どうも」
「ふぅーん……」
熊手さんとやらは実を一瞥した後に、実の近くに寄って、耳に顔を近づけていた。
―Minol Side―
まー君の中学2年の時のクラスメイトという人が現れた。私は違うクラスだったし、確かめる術もないので黙っていたけど、話が一段落したところで、熊手と名乗った女性はこちらに近づいて、私の耳に口を近づけて、こう言った。
「彼に気があるみたいだけど……彼は全くそんなことは無いみたいだし、無理じゃない?」
彼女が囁き放った言の葉は、私の心を乱し、割り砕くには十分な威力を秘めた内容だった。




