147話 SPEEDLIMIT
「お買い上げありがとうございましたー。またのお越しをー」
互いが互いにプレゼントする品を購入し、店を出た。
「折角だし、着けて行こうよ」
「う、うん……」
実は照れたようにして、ゆっくりと商品タグを外していた。
……その場で渡すプレゼントとはいえ、包装していないのは流石に勿体ないということで双方合意が取れたためだ。学生に包装費用は高い……。環境保全という言い訳も使わせてもらおう……。
「も、もし良かったらなんだけど……」
「うん?」
実はもじもじとしながら、目も合わさずに口を開いた。
「プレゼントし合ったんだし、その……互いに着けさせてみない……?」
「『着けさせる』……?」
つまりそれは俺が実にチョーカーを着けて、実が俺にネクタイ着けるってことか?
「やっ、やっぱりダメだよね!? ゴメンねっ! 変なコト言っちゃっ――」
「別に良いけど……」
「て……って、え?」
「このチョーカー? ってのは普通にベルトを着ける感じの着け方で良いの?」
「あの……良いの?」
「ん? 嫌だった?」
「そんなことないけど……」
「じゃ、着けようぜ? ここであんまり長時間たむろしてると周りの人にも悪いし」
「そう……だね……」
「じゃあ、俺の方から着けてもらって良いかな?」
「うん、分かった」
ネクタイを実に渡し、身を委ねた。
―Minol Side―
「襟は立てた方が良いか?」
「お願い」
「これで良いかな……はい、どうぞ」
まー君が中腰でその首筋を差し出してくる。
彼の首にネクタイを掛け、結び目を作る。
「……」
「……」
中学の制服にネクタイは無かったし、ファッションとして着けることは元々少なかったし、この身体になってからは更に頻度は減った。それを他人に対してするものだから、少しもたついてしまう。そんな姿をじっと見つめられて、更に緊張してしまう。まー君の目は好きだけど、この今ばかりは、できたら瞑っていて欲しい。
「……できた」
「ありがとう。似合ってる?」
「私が選んだからね。似合ってると思う。私の感性が世間と合ってるなら」
「実は良い感性してるからな。それなら自信が持てるな」
……まー君はすぐ、こういうこと言う。
「じゃあ今度は俺が実に着ける番だな」
そうして目の前の彼は、私が選んだチョーカーを私の首に手を回しつつ、チョーカーを留め具に通した。
「キツさって、このくらいがいい?」
まー君が仮留めした位置は私にとってやや緩めの、それでいて心地よさで言えば丁度良いほどの位置になっていた。流石は幼馴染、私のコトをよく分かってる。
「もう少しだけ、キツく締めてもらえる?」
「こう?」
「んっ……そんな感じ」
私の完全に不純な動機の為に、吸入される酸素の量が少なくなる。
「大丈夫か? 少し苦しそうに見えるけど……」
「全然、大丈夫……うん……、本当に大丈夫だから……」
まー君に締めてもらったという照れ、吸入する酸素が減ったことによるじわじわと増えてくる多幸感、そしてこんなことを彼に無意識的にさせたという罪悪感。
これらが相まって、頭の中で言葉がまとまらない。
「本当に?」
「本当だって。心配してくれるのはありがたいけど、心配し過ぎ?」
「そういうことなら……済まん」
「心配してくれるのはありがたいから、謝らなくて良いって。また心配するようなことがあったら、その……心配っていうコトを伝えてくれるとありがたい……かな」
「ああ、……分かった」
心配してくれたり、申し訳なさそうにしてくれたり……頼もしいところだけじゃなくて、そういった不安そうな顔も私にとっての好みに合っているのだから、感慨を受けるとともに不思議にも感じられる。
「兎に角、これで大丈夫だから」
「おう……それに限らないけど、他に体調が悪くなったり、違和感があったら言ってくれよ」
「ありがと」
そしてこの後、体調に特に異変を感じることもなく遊び周り、気が付けば陽が傾いていた。




