144話 SUPERCHARGER
―Minol Side―
「“今は”……ナイショで」
“今は”……何故、まー君はそこを強調していったのだろう。これは……俗に言う“駆け引き”というヤツなのだろうか?
なんでナイショなのか、なんでそれが今だけなのか、私には何も分からなかったけど、胸にこみ上げる、怒りでも無い興奮。ただ、焦燥が溢れてきていた。
「ふ、ふーん……わ、私は、いる、けど……」
私自身、あまりの動揺で自分が何を口走っているのかさえ分からなくなっていた。これは……強がりを言ったのか、彼の嫉妬の気を引きたかったのか。
「……そっか」
彼は優しい目をして、そしてそれだけ言って、私の言ったことにただただ頷いていた。
この余裕さは、一体……?
もしかして、私がまー君のコトを想っているのが、バレてる……?
それとも逆に、何とも思われてない……? ……でも、その方が可能性としては高い、と思う。
「……どうした?」
こっちが彼を見ていると、こちらの視線を気づかれてしまう。彼の瞳はただの友人に普通の会話の中で向けるモノではなく、やや挑発的というか、試すようなモノであるように感じるのは、私の思い違いなのだろうか。それとも私が勝手にそう望んでいるから……?
「いゆあ、何も……?」
「フフッ……何だよ『いゆあ』って」
「なっ、何でもないって……!」
メチャクチャ噛んだ。そしてメチャクチャ笑われた。噛んだことそのものよりもこの話題で私が動揺していたことの方に笑われたんだと思う。私も私で一応格好をつけたような話し方をさっきまでしていた所為で、緊張と緩和でまー君を笑わせてしまったのかも知れない。
「はぁ……」
手に持った食器をカチャリと置いて、思わず溜息が出た。私自身のダメさに辟易としてしまった為だ。つまり、“いつものアレ”だ。
ここで告白するのかどうかと考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
正当な評価なのか、それとも気が滅入って悲観的になりすぎているのか。頭が少し上せて冷静に考えられてない。……今日の気温と服の選びを間違えたのかな?
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫……。ありがと」
「無理すんなよ。連休はまだあるし、今日体調が辛かったらまた今度にすれば良いから」
「……うん」
まー君の対応一つ取っても、気配り気遣いの細やかさ、そして言葉選びの繊細さが分かる。
もし……もし、この告白が成功するにしても、私は彼の隣に相応しいのだろうか? そもそも私に告白する権利があるのか……。
……いや、ここで引く、なんて選択肢なんて最初からない。
この機会を逃すと、卑怯で臆病な私はきっとずっと、逃げ続けることになると思う。
もし告白しないとなるのは、例えば貧血や熱中症といった意識を失うようなことが起きて、やむを得ず中止になってしまう場合だけ。そうでなければ、必ずやる。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて、次をどうするかを考える。
「じゃあ、次はどこ行くのとか、決めてる?」
「それは……」
一応、決めてはいたけど、今の自分には迷いの残滓が頭に纏わりついて、すぐに言葉が出てこなかった。
「取り敢えず出てから考えるか。混んできてるし」
「う、うん……」
そして私たちは席を立って、お会計にと向かった……のだけど……。
「あ、アレェ……?」
「どうした?」
「いやその、ちょっと……」
小銭が、無い……。
財布の中を覗いても、大きめのお札と割り勘分には足らない小銭のみ。
ここでお札を出しても割り勘としては面倒になってくるし、とはいえここで全額出してしまうとなると、後の予定に大分と支障が……。
「こちら、お返しでございまーす」
「え?」
「じゃ、行こっか」
財布を覗いて数秒も経たない内に、何故か私たちの会計は済まされていた。
「混む前に来られて良かったな」
「えと、今のは……」
「帰ってからで良いから、な?」
「ほ、本当に後で払うから……ゴメン……」
「気にすんなって。実と俺だろ? それに奢り奢られなんて前からあったし」
「そうだけど……」
「一応受験勉強へ向けての区切りとして遊ぶための今日だろ? それに、他の人から見たら連休に男女2人で出てるなんてその手の人らだと思われてるだろうし、俺が全額出しても何も問題無い。だから気にすんなよ、俺は気にしてないしっ!」
「ありがと……」
……またも、自己嫌悪に苛まれてしまうのだった。




