141話 FULL THROTTLE
―Minol Side―
「扉、閉まります。ご注意ください」
予定通りの電車に乗り、席に座った。
「連休だけど、座れて良かったね」
「……うん」
「……実? 大丈夫? あ、あー……今日ちょっと暖かめだし、疲れて乗り物酔いでもした?」
「あぁ、大丈夫。なんでもないから」
「???」
座って少しボーっとしてしまって、まー君の話への返しが鈍ってしまった。
ぼんやりと呆けてしまっていたのは、さっきのまー君のこと。
私が今日の格好について聞いたときに帰って来た言葉。
『可愛いっ……!!!』
褒めることを期待していた私でも、ここまでストレートに褒められるとは流石に思ってもみなかった。もしかして「期待してて」という言葉を受けて、かなり忖度した答えをしてくれたのかも知れない……。だとしても、下手したら軽口でも返されるんじゃないかと内心怖がっていた私には申し分のないクリティカルヒットの返しだった。
『えっ!? あっ……あり、がとう……』
それに対する私の反応はどうだ。
驚いて大声を出して、吃って、礼の言葉すらも途切れさせて、そして目まで泳がせた。
その後にすぐ駅へ向かうように促したけど、普通に不機嫌かどうかという印象を持たれてしまったかも知れない。電車に乗った時も、反応が悪くなったときに気を遣われてしまったし……。
というか私は、自分の事だけ気にしてまー君のことを今日会ってから今まで全く触れてない気がする……。
まー君が私の服を褒めてくれたし、せめて何か彼の服にコメントを……。
「……っ」
「ん? 何?」
「いや、何でも……」
隣の座席に座る彼から仄かに感じる良い匂い……。
最近はある程度物理的な距離を取ったことと、その匂いに多少ほど慣れたことによるものか、まー君の持つ匂いが私にとって良いことを忘れていた。
座れているとはいえ、満員で肩が触れ合うほどの距離でまー君の服を見ようとしたことで、彼の匂いが私の鼻腔をくすぐった。
服を褒めようかと思ったのに、まともに言葉が出てこない自分自身が恨めしい。
しかもこちらの視線に気づかれて、考えていた言葉を放って投げ出すことにする始末。
彼の体温と匂いを感じながら彼の姿をこの瞳に写すと、そこには輝きを灯して座するナイスガイが一人。
ダメだ。全く以って正しい評価が出来ない。別に正しい評価が出来てなくても褒められるから良いような気がするけど、今の私だと絶対何か失言をしそう……。褒めるだけに留まらず、さらっと想いを漏れ伝えてしまいそうで……マズい。
と、取り敢えず、真っ当な評価をしながら口から言葉が漏れ出ないように、息を止めて見てみよう。……こんな変なコトをしているとバレないようにしながら。
……、格好良い……。
息、止めてて良かった。ただでさえ格好良く感じるのに、まー君の匂いを嗅ぎながら見ていたら一体何を口走ってしまっていたことか。褒め過ぎて逆に失言しそう……。
「あのさっ」
「?」
焦るな……焦るな……。焦って変なコト言うなよ自分……。
「まー君の服もその……格好良いね……?」
なんで疑問形に逃げた自分っ……! 「似合う」とかで逃げるんじゃなくて、ちゃんと「格好良い」って言えたのに……、何故……っ!?
「お? そう? ありがとな。……実が『期待しとけ』って言ってたから、こっちも流石にいつものラフな感じなのは良くないかなって思って」
「そう……なんだ。逆にゴメンね? 変に気を遣わせちゃって……」
「別に、良いってことよ。後、『ゴメン』じゃなくて、『ありがとう』の方が良いかな?」
「ご、ゴメッ――」
「それも、謝らなくていいよ」
「……うん、分かった。ありがと……」
「こちらこそ、どういたしまして」
はぁ……自分のダメなところが……。特に今のまー君のイケメンムーブをされるとこう……私のダメさがより際立って……嗚呼。
「まもなく到着いたします。お乗り換えの際は、3・4番出口からの連絡となって――」
「ここだよな? 行こうか」
「ああ、うん……」
取り敢えず、次! 今はそんなに気にされてないっぽいから、次でなんとか巻き返そう。




