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138話 立ち上がり

 連休前最後の1週間。その月曜日の朝。


「お、おはよう」


「おはよ」


 いつも通りの登校の風景。しかしそこには大抵居るある人が居なかった。


「彩梅ちゃんは?」


「『後から行くから先、行ってて』って」


「そっか」


 違和感を解き明かして、通学路を進むことにした。


「前のアレ……ゴメンね?」


「……何が?」


 普通に歩いていると、実が突然謝ってきた。……何故?


「いやその……一緒に出掛けたときにその……まー君の方に注意をあんまり向けられて無かったって言うか……楽しいかどうかに気を遣えてなかったなって……帰った後にそう思い返して……」


「あぁー……えぇ……?」


 理由は聞けたものの、イマイチ理解には及ばなかった。


「俺は……気にしてないけど……?」


「ほ、本当……?」


「こう言っちゃなんだけど、実がそこまで気にする理由がこっちにはあんまり分からないような……」


「で、でも、あの時、殆ど私の話を聞いてもらってただけだったし……」


「うーん……? 俺は楽しかったから、別に良いんじゃね?」


「それなら……良かった? のかな?」


「少なくとも俺は良いし、俺の反応が気になるんだったら、そこまで気にすることじゃないし、態々謝ることでもない気がする」


「……分かった。ありがと」


 そう言って実は何か照れるように髪に指を巻いて流し目した。


「……?」


「……どしたの?」


 ここでただただ話が終わると思った。いや、確かに話自体は終わった。だけど、その後の実の行動に疑問符が出た。


「なんでこの状態に?」


「……ダメだった?」


「ダメじゃ……無いけどさ……」


 実は何も言わず、当然であるかのように腕を組んできた。


 嫌ではないし……どちらかというと役得ですらあると思ってはいるけど、これは「友人」としての距離感とはまた違うモノなんじゃないだろうかという疑問が。


 何より腕に柔らかさのある感覚がする。薄手の長袖だけど、ほんのり体温を感じるほどだ。


 以前にもこれくらい近くだったり、時には接触していたりしたこともあったと思うけど、あの時とは自分の感情が大分と違うのが問題だ。


「ダメじゃないけど……理由は聞いて良い?」


「理由って……必要?」


「無理には聞かないけどさ……」


 そう言われると聞きにくいなぁ……。


「うーん……仲直りというか、ギクシャクした感じにならないように、いつも以上に距離を詰めてみた……感じ?」


「あー……そっか。分かった」


 実には実の、俺の知らない苦悩があるのかも知れない。TS化して暫くしても、社会から排斥されるかもしれないという恐怖なども感じていてもおかしくない。


「実は実で……暑くないの?」


「暑いとは思ってないけど……やっぱり嫌?」


「いや、最近気温が上がったから、実は大丈夫なのかなって思って」


「私は大丈夫だけど……汗とか気になる?」


「汗は別に……でも前に熱中症で倒れてなかった? ほら、放送の遠征のときだったっけか」


「あ……」


 そう指摘してみると、実は過去の失態を思い出したのか、頬を染めていた。


「……熱じゃないよな?」


「は、はい……」


「……じゃ、行こうぜ」


「うん……」


 そこまで照れられると、こっちまでドギマギしてしまうな……なんて思いながら、通学路を往くのだった。

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