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135話+ 二の腕の柔らかさは

―Minol Side―


 妹の発案で髪型を変えてみてから早、数日。思っていたよりも早くに結果……というか反応が出て良かった。なんて思っていたらいつの間にかお昼休み。


 自分自身が浮かれているのを自覚しながら、ペットボトルの蓋を握る。っと、ん? アレ?


 これは……。


「おはようございまーす」


 と、開けようとしていたペットボトルを見つめていたところでまー君が放送室に入って来た。変なポーズで目が合ってしまい、ほんの少し恥ずかしさを感じてしまった。


「まー君、良いかな?」


「どうした?」


 部屋に入ってすぐに話を振ったというのに、フレンドリーかつ親身に対応してくれる。


「ちょっと今、力入らなくて……開けてもらって良い?」


「……良いよ」


 そう言って私のペットボトルを受け取り、握りしめるまー君。


「ふんっ……と。はい、どうぞ」


「ありがとう」


「それにしても、実がこういうことを頼むなんて、高校に入ってすぐのころまでは全然考えられなかったな」


「え? それってどういう……」


 開けたペットボトルを返しながら、まー君は何かを思い起こしているようだった。


「ほら、実が男だった時は俺よりも力あっただろ」


「あー……確かに?」


 確かに私が男だった時はそうだった。私とまー君は一緒に遊ぶことが昔から多かったとはいえ、比較的アウトドア派だった私と比較的インドア派のまー君とは筋肉の付き方から違ったような感じだった。もしかしたら遺伝とかの要因の方が大きかったのかも知れないけど。


 そう言えば、ペットボトルで思い出した。中学の時にも、似たようなことがあった気がする。あれは中学のいつのときだったか――


「よう増良。……どした? ペットボトルなんか握りしめて」


「いやぁ……ちょっと、腕というか、手に力が入んなくってさ……」


 ある夏の日。学校帰りに自販機の前でペットボトルを握りしめる増良の姿があった。


「普通に増良の握力が無いだけじゃね? ヘヘッ」


「笑うな! せいっ!」


 脳天に微弱な衝撃。


「そんなチョップが効くと思ってんのかぁ~?」


「そりゃ加減してるからな。あと、俺がペットボトル開けてるところみたことあるだろ」


「あーはいはい。貸してみな」


「人の話聞けよ……」


「増良はまだ声変わりもしてないし、腕力も弱いなーっと、はいどうぞ」


「腕力は兎も角、声変わりは時間の問題だろ……どうも」


 ……なんて一幕があったのを思い出した。


 今や活動量や活動場所はまー君とほぼ同じくらいの比較的インドア派になっている気がする。……って、ちょっと待って。


 思い出している男だったこの時って、既に声変わりしてたはず。会話からもそんな感じしたし……。でも思い出した私自身の声はまだ高いような……っていうか、TS化後の声になってた……?


 嗚呼……。


 いろんなところが女性らしくなっている自覚こそあるし、受け入れても来たけど、まさか自分自身の記憶すらも自身に都合の良い形に改ざんしてしまうだなんて……。


「……はぁ」


「どうした実?」


「いや……なんでもない……」


 自らの女性化以上に自分本位というか、身勝手な心理構造になってしまっているのに気が付いて、自己嫌悪で落ち込んでしまった……。


「それにしても、俺より力のあった実が、ペットボトルの蓋を開けるのに俺に頼るとはね」


「ホント。筋トレとかも多少はしてるのにね」


 ペットボトルを持ってない方の腕で力こぶを見せるようにしてみる。春秋用の制服で薄手とはいえ、長袖なのでそこまで分かるモノでもない。ま、男だった時はこの程度の長袖でも力こぶに気づけるほどあったことと比べると分かるという感じだ。


「全く以って見る影も無いよな」


「……触ってみる?」


「え?」


 あんまりマジマジと見られるもんだから、そんな提案をしてしまった。


「あ」


 そして口から漏れ出た不意の声。


 いくら私たちの間柄でもこんなことを言うのはどうなんだろうということ。TS化して早2年だというのに、男女ということを頭から抜けるときがある。もしかしなくてもこれは所謂セクハラになるのではなかろうか? 男女だし。


「いいの?」


 っと、まー君も割とノリ気だった。引かれてない、良かった。


「減るもんじゃないし、気にするようなことでもないよ」


 嘘です緊張で精神が磨り減りますしメチャクチャ気にしてます。恐らくまー君が考える逆方向で!


「どうぞ」


「なら遠慮なく……」


「ゴクッ……」


 緊張で生唾を呑み込んでしまう。心外大きな音で喉が鳴ってしまったため、更に緊張は高まった。


「……力、入れてる?」


「ごめん、忘れてた。どぞ」


「これでも俺のより柔らかい気がするな……」


「そ、そっか」


 恥ずかしさで声が震えてる。顔も赤くなってるかも知れない。けど、このくらいは許容範囲内かな?


「おはようございまー……先輩たち、何してるんですか?」


 私たちが放送室の扉の近くに居たので、入って来た1年生に変なトコロに声を掛けられてしまった。


「え!? いや、これは男女の筋肉の差ってなんだろうって話してて……」


「そうなんですか?」


 そうだっけ? なんて思ったけど、彼なりにはぐらかしてくれたのか。これを声に出してたら自爆してたな、と反省。


「そういえば女の人の二の腕の柔らかさで、何か俗説があったような……」


 そう言って彼女は天を仰いで数秒と掛からない時間で記憶に辿り着いたよう。


「思い出しました! 確か女性の身体は二の腕と胸が同じ柔らかさっていう俗説がありましたね!」


「「え゛……」」


 その言葉に、2人して硬直。


 脳内に駆け巡るのは数か月前、事故でまー君が私の胸を揉んでしまったあの日の出来事。まー君も同じことを思い出しているのかも……。幸いなのは、あの日の出来事を直接見てしまった彩梅が、まだ放送室に来てないことなのか。


 そしてそのままお互い顔を赤くし、昼休みが終わるまで居た堪れなくなってしまったのだった。

割と前から構想はあったんですが、この時期の挿入になりました。最初は主人公/実らが1年の時のエピソードとして、題名は「失われた筋肉を求めて」というタイトルを予定していました。大分変わりましたね。

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