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135話 DRIFT

 朝の教室。朝のHRが始まる少し前。


 また、おかしい。何かがおかしい。


 そして、単に違和感が“何か”は分かっている。分かっているけど……。


「おはよう、まー君」


「……お、おう」


「……どしたの?」


「いや……、今日も今日とて遅かったなって」


「それは……アハハ、確かにそうだね。ここ最近は……って、こんな感じの似たような話、少し前にもしなかったっけ?」


「あー……なんかそんな気もする」


 似たような文脈をしていたときの違和感よりも更に鮮明に認識できる。そしてそれは“認めたら自らの中の何か、堰が外れて感情が外に漏れ出てしまう”感じもしない、気が付いて当然のこと。


 違和感……というか、実について変わったところと言えば――


「今日の1限は英語の……ライティングだったっけ?」


「……え? なんだっけ?」


「今日の1限のことだけど……」


「あー、あー……英語だったね、ライティング」


 それは髪型だった。


「……そんなに私の顔見て……何か気になる? ゴミとか付いてたりする?」


「そうじゃないけど……」


 毎日変わる実の髪型は見ていて面白くもある。そこまで奇抜ではない、割とスタンダードな髪型のアレンジ……だと思う。髪型とか詳しくないから俺が勝手にそう思ってるだけかも知れないけど。


 今日の髪型はもみあげ辺りの髪を三つ編みで纏め上げたような髪型だ。


 揺れる三つ編みがどうにも気になってしまっている。こういう髪型も実は似合うのか、と。


「そうかな?」


「え?」


「今、『こういう髪型も実は似合うのかー』って言ってたから。……もしかして私の聞き間違いだったりした?」


「いや、確かに言ってた言ってた」


 やっべ。思わず口に出ていた。


「ありがとね」


「な、何が……?」


「褒めてくれて」


「あ、あぁ……どういたしまして」


 服とか髪とか、褒めたことも前には無きにしも非ず程度にはしていたと思うけど、今の実に改めてこういうことをすると何か気恥ずかしさを感じてしまうな……。まあ、俺が意識し出してから言ったのは恐らく初めてだから、それが大体の理由だと思うけど。


「最近髪型を変えるのに凝ってて。まー君的にはどんな感じの髪型が良かった? やっぱりコレ?」


 そう言って実は三つ編みを手の平で持ち上げるようにして見せてきた。


「うーん……やっぱそうかな?」


 実が髪型の話を続けたのが意外で焦ってしまい、今までの髪型が思い出せないのもあって、俺の反応は悪かった。だが、取り敢えず今、思い出せる中で最も良いと思えたのもそれだった。


「へぇー……なるほどぉー……」


 割と照れながら言ったのでそんなに反応が薄かったら少し凹んでしまうなぁ……。


「な、何だよ」


「いやぁ? ふぅんって、思っただけだよ?」


「何だそれ」


 心なしか実の表情がニヤついているような気がする。その表情が若干癪に障るような、俺の照れの感情を増大させるような……。


 そんなこんなで始まる朝のHR。


 休み時間の過ごし方で、幸い俺が緊張しているところをこれ以上実に見られることが無くて良かった。おかげで昼休みまでに心を落ち着けることが出来た。


「まー君、良いかな?」


「どうした?」


「ちょっと今、力入らなくて……開けてもらって良い?」


「……良いよ」


 実が手にしていた未開封のペットボトルを受け取って、力を籠める。


 飲み物というある種デリケートなモノを手にしても落ち着いていられるあたり、取り敢えず今日中については大丈夫だな、と思うのだった。

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