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132話 HYDRO PLANING

―Minol Side―


「で、お昼でのことだけど」


「はい……」


 放課後。私は放送室でまー君と2人きりになっていた。そして凡そ予想のしていた通り、あまり嬉しくない話題で。勿論自業自得なので理不尽さは全く感じてないけど。


「まず最初に聞いておくけど、今日、どこか体調でも悪い?」


「いえ……」


「じゃあ何か、気になることでもあった?」


「それは……無いです」


 本当はメチャクチャあるけど、それはあまりにもまー君に関わりすぎることなので、口を噤むほか無かった。


「それじゃあ昼の放送の時の“アレ”は……原因は何か思い当たったりする?」


「いやぁ……」


 言葉に詰まる。原因はさっき言葉を噤んだ中にあるため、それを除くと理由は無くなる。


「敢えて言うなら……集中できなかった……からかな? 放送で話すの久しぶりだったし……?」


 咄嗟に浮かんだ理由を口にして、様子を見てみる。


「ふぅ~ん……」


 まー君は自身のこめかみ辺りを撫でるように揉み、喉を唸らせた。


「今後こういうことがあると新入生……新しく入った子が委縮して辞めてしまったり、辞めるまでは行かなくても、パフォーマンスが下がって自信がつかなくなってその子の伸び代に関わるから、本当に注意して欲しい」


「はいぃ……」


「これは実が昼に相手にしてた弥刀さんだけに限らず、ね?」


「それは……分かってます……」


 普通に叱られてる……。


 怒鳴る感じで怒られるでもなく、理論だけで詰められるという訳でもなく。ただただ諭すように、説明を交えて淡々と注意を受けた。


「こういうことを今後起こさないためには、どういう注意をしたらいいのか、何をしたらいいのか、考えてみて」


「えーっと……」


 まー君にこう言われてしまったものの、頭の中は正直それどころではなかった。


 嫉妬だとか、嫌われたくない心理だとかがあって、思考回路はグルグル、平衡感覚はグラグラ。


 そこまで広くない部屋に2人きりという事実がこの不安定さに拍車を掛けている。「遠いし真正面から向かいになると余計緊張するから」という理由で机の角に2人で座っているけど、距離は私にとって近すぎるように感じるし、斜めから構えている所為でいつも以上に格好良く見えてしまう。心臓が持ちそうにない。


「まずは……相手が新入生とか関係なく生放送とかで相手方に全部任せてしまうようなミスをしないこと……」


「うん」


「他にはもしそういったミスをしてもフォローをすることとか……かな……」


「そうだね」


「後は……なんとか、頑張ってそうならないように、注意します」


 ともあれなんとか言葉を捻り出して言葉を紡いだ。


「最後のは……そう宣言されても困るというか……、まあいいや」


 どうやら困らせた回答をしてしまっていたらしい。その返答にこちらの胃もキュッとしてしまった。


「兎に角、今後は昼みたいなことは無い様にね」


「改めて、気を付けて精進します」


「はぁ……、はい。それじゃ、この話は終わり、ということで」


 困らせた回答の上塗りのような答えだったので、まー君に再び溜め息を吐かせてしまった。大分落胆されてしまった……と思う。もしかしたら、嫌われてしまったのかも知れない。


 緊張しているとはいえ、口から出たのが保身だったという、明らかな自業自得だ。


「じゃ、委員会室に戻ろうか」


「あ……」


「ん……?」


 この雰囲気のまま終わってしまうのが耐えられず、声を漏らして手を伸ばしていた。


「えっと、何?」


「それは……その……」


 伸ばした手はまー君の袖を掴んでいた。


 それに至った動機はあれど、この先で「何をしたいか」、「何があるのか」を考えずにいたため、理由が口から出ることは無く、暫くこのまま密室で2人して硬直したまま時間が過ぎて行った。

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