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131話 VAPOR LOCK

―Minol Side―


「はむ……うむうむ」


「姉さんはなんでそこまで目つき悪くしながらご飯を食べることができるの……?」


「え? 目つき悪い?」


「しかも自覚無いし……」


 昼放送開始前、放送室で昼食を摂っている私の目の前で後輩に囲まれているまー君を見つめていたら、妹からそんな指摘をされてしまった。


 目つきが最初から悪かった訳ではないはずだし、恐らく自分の機嫌によってそうなってしまっているのだろう。


「……はぁ」


 嫉妬に自己嫌悪で溜め息。最近はマシになって来たと思っていたのにコレ。この自己嫌悪とは別に、成長しない自分に嫌気が差す。


「あ、そろそろ時間ですね」


「えーっと、昼放送の時間か。今日の担当は、っと」


「……ふぅ、よしっ」


 頭をなるべく切り替えるように意識して、昼食を途中で片して息を吐いて全身の筋肉を引き締めた。


「今日の私はどれだっけ?」


「松前先輩は今日、パーソナリティですね。お相手は新人の弥刀ちゃんですね。話しの方は初めてなので、リードをお願いしますね」


「分かった」


 席を移動し卓上マイクスタンドを調整、話し出す準備を行った。


「あー、テステス」


「奥マイクOK」


「マイクテストー……」


「手前マイクOKです。曲が終わるまであと20秒くらいでーす」


 音響機材を弄り、音量を調整するまー君の顔を見て安心感を得る。再び息を整えて、昼の放送に臨んだ。


「それではいきます。3……2……」


 合図出しが緊張感を走らせる。


 初めて昼放送で話す新入生の弥刀さんは顔が強張っているし、久々に放送する私も少し口の中が乾いている気がする。


「皆さんこんにちは、お昼の放送の時間です。本日のパーソナリティは――」


 放送は問題なく進行し、“いつもの通り”に進んでいた。


 ……途中までは。


「細染先輩、次の曲ってどれでしたっけ?」


「そのまま次のナンバーの曲で良いと思うよ。次の曲に移るのは右側のボタンを1回押したら普通に移るから、こっちが合図を出したらそのボタン押してね」


「分かりました」


「……」


 どう見たってただただ後輩が先輩に機材の扱い方の教えを乞うているというだけの場面なのに、嫉妬心が煽れらてしまうのはやはりどういうことなのだろうか。それも同性同士が少し近い距離で、こちらのマイクに音声が入らないように小さめの声で話し合っているだけなのに。


「あのー、次のコーナーに行きたいと思うんですけど……」


「そっ……、そうですね。次に行きましょう……」


 機材担当をしている2人に注視するあまり、放送事故を起こしてしまった。これはいけない。集中、集中……。


「こんな感じでいいですかね?」


「うん。大丈夫」


「あざっす」


「……っ。次のコーナーは――」


 目の前の状況に狼狽えながらも何とかアレ以上の放送事故を起こすことなくやり遂げることができた。……“できた”って言えるのかな?


「ふぅ……ゴメンね」


「いえ……何かあったんですか?」


「弥刀ちゃんは関係無いから心配しなくていいよ。100私が悪いから……本当に」


「そう……なんですか……」


 新入生には変な気を遣わせてしまう始末。活動する一人の委員としてだけでなく、先輩としてもどうなんだ私……。



「実ー」


「まー君。なっ、何?」


「放課後、時間ある?」


「ある、けど……」


「じゃ、授業が終わら次第、またここに来てもらえる?」


「分かっ……た」


 何があるんだろう? 委員会の話? それとも変な緊張を纏ったこの空気感は可能性としては告白も――いやいや、コレ絶対詰められるヤツ……と思いつつ、「もしかしたら……」なんていう期待が心内を掻き乱して落ち着くことが出来ず昼休みを過ごすのだった。

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