130話 BRAKE FADE
―Minol Side―
新学期が始まって数日。流れる日は登校日の日常を取り戻して、生活は回り始めていた。
その中で、やはり気になることと言えば……。
「先輩、放課後になったらまた朗読、聞いてもらって良いですか?」
「ん? 良いよ。移動教室遅れないようにね」
「はいっ!」
まー君の慕われ具合は新学期マジックだとか、新入生マジックだとかのように一過性の人気などではなく、ちゃんと裏打ちされた人格からくる尊敬の念だった。
「……」
「姉ー、移動教室じゃないのー? あと男に嫉妬しても何にもならないから変なところで油売ってるの、時間の無駄だと思うよー?」
「分かってる」
「はぁ……。私も移動教室だから先行くねー。遅れないようになー」
そう言って去っていく妹に手信号を出すように無言で手の平を軽く振り挙げて応えた。
「……、はぁ」
とはいえ今は移動教室が優先。考えても答えの出ないことに長く時間を取るべきじゃない。思わず感情から出た溜め息を推力に背筋を整えて、目的地に向け歩み出した。
まさか自分の嫉妬の範囲の広さに新たに自己嫌悪してしまう項目が増えたことに辟易としつつも、徐々に燃え広がる嫉妬の炎にどこか焼かれて自意識もその炎そのものになってしまっている気がする。嫉妬する心を自分自身が受け入れて、自己の欲求に素直になっていってしまっているような……。
我慢していたら我慢していたで暴発してしまいそうだし、かと言って距離感を詰めても向こうが困惑してしまうことは必至だし……。一体どうすれば。
授業を受けつつそういったことも考えてみても、答えは全く見つかりそうにない。考えは2限、3限の授業を受けても混沌の渦のまま、時間が進めば進むほど授業すら集中出来ないでいた。
ッバーン!!!
「ま、松前さんっ、大丈夫!?」
「え?」
「思いっきり顔に当たったみたいだけど……」
「あー……、えっ?」
考え事から何らかの衝撃で現実に引き戻され、周りを見てみると、体育館の床を跳ねて遠のくバレーボールの影があった。
「えぇっと……、鼻血とかは出てないし、顔とか他にも違和感は無いから大丈夫かな。そもそもバレーボール自体柔らかいし」
「大丈夫そうなら……良いけど……。違和感があったらすぐ保健室にね」
「気遣い、ありがとう……」
女子の体育に混じることになって1年と数か月経ったけど、この、何とも言えない気まずさには全然慣れそうにない。
女子への見方についても、男だった時は確かに性欲もあったし、今でも可愛い子は可愛いと感じても性欲に全く繋がらないのが不思議でもあり、後ろめたさもあり。
「松前さん靴っ!」
「えぇ?」
「体育館シューズ履いたままだよ?」
「あっゴメっ……」
バレーボールを顔に受けたからか、それともそもそも関係なく頭がフワフワしてしまっているのか。
何度も気を抜かないように自分では気を付けてはいるものの、どうにも今日はミスをしてしまうことが多い。
そしてそれについて考えてしまってまた周囲についての注意が疎かになって躓いて転倒し掛けるなど。
「はぁ……おはようございまーす……」
4限を終わり、放送室に入る。
「おう、さっきぶり」
「おはようございます!」
「おはようございまーっす!」
「あ……」
「ん? どうした?」
「あぁいや、何でもない……」
重い防音扉を押し開くとそこには、握っていた手の力が扉に負けるような気がするような光景。
まー君の両隣には後輩たちが座っていて、どちらかの隣にも座ることができない状態で、まー君からの問いかけに、手に力を更に籠めながら上手く笑えない苦笑を浮かべるしかなかった。




