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129話 CUSPURT

「先輩! 私のアナウンスの通しの読み、聞いてもらっていいですか?」


「ん? ああ、いいよ」


「細染先輩! 次は私も見てもらっていいですか!?」


「良いけど……ちょっと長くなるから暫くは他の先輩に見てもらうか自主練するかしてもらってていい?」


「分かりました! 待ってます」


「じゃあちょっと……声が他の人の邪魔にならないように少しだけ寄ろうか」


「はい!」


 放送委員会に新たに入った後輩たちにどうも俺は人気らしい。


 それは何故か。原因は始業式があった日の午後、部活・委員会紹介でのこと。


 俺は当日の司会・進行として活動していたのが目立ったのかも知れない。当時の放送委員会の男は俺一人(実も元男だけど今は女生徒にしか見えないし)だった訳で、それで目立ったのがあるのかもしれない。放送委員会の紹介動画や委員の紹介でも気になった人がいたようで。


 うーん……、放送委員としての活動も丸2年とやって来た訳だし、アナウンス、司会の能力も認めてくれる新入生が今年入って来てくれた後輩たちなのかもしれないな。


 学外行事の男手として呼ばれることも多かったし、当時中学生だった新入生に顔とか覚えられていた、というのもあるのかも。


「全体的に良かったけど、鼻濁音がやっぱり弱いかな? あと最後、集中力が切れてたのか甘噛み、何回か連続してたから。改めて気を引き締めて、でも肩の力を抜いて、喋るスタミナをつけるコトを意識したら良いと思う」


「助言、ありがとうございます!」


「はい、頑張って。……っと」


 なんとなく、これで良いのか? などとも思ってしまったり。……何故だろうか?


―Minol Side―


「……っ」


 妹よ、そんなに鋭い眼光で新入生を睨みつけたところで意中の相手からは怖がられるだけ、新入生も関係性が悪化して最悪退会してしまうし、もしそうなったらその意中の相手からも良くないように思われてしまう。


「……」


 いや、私も結構複雑な気持ちが……。嫉妬が顔に出てるような気もしなくもないけど。


 嫉妬を正当化できるような間柄でもないというのを理解できているし、納得も多少はしているし、まー君と相手との関係性も短期間に出来たモノだから余裕があるというのもあるからそこいらに居るただの新入生の女生徒が物理的に近づいたくらいで動揺するなんてコト――


「先輩、俺も良いっすか?」


「良いよ、どこか気になるとことかある?」


「カハッ……!!!」


「……?」


 彩梅が私の反応を見て頭に疑問符を浮かべているけど、これは仕方のないこと。


 これは「元男」の私だからこそ、ダメージを受けた。


 あのスタンス、あのコミュニケーション、あの距離感。あの2人の会話の距離と間はモロに「男同士」のモノだった。


 かつての私と彼の間にあって、今は無いモノ。


 あの独特の間は男と女だとどうやったって生まれ得ないモノなんだと、女の身体になって分かった。ある種、“男女間に友情は成立するのか”、その答えみたいな話。


 嫉妬なんてする要素の無いはずのモノで、確かに元から女性である彩梅はこの嫉妬を感じていない。


 しかし私はというと、元が男だった所為で自分のより深い所から嫉妬が生まれ出るのを感じてしまう。以前はあの距離感で、アレ以上に近かった距離感が失われたと感じているのだから当然なのかもしれない。


「先輩、ここのアクセントってどんな感じなんですか?」


「ここは確か平板だったかな……あ、もう少し近くに見せてみて」


「どうぞ」


「んー、平板か尾高で良い、と思う」


 1枚の原稿をあんな距離感で……。性別が変わってしまった今は私もそこまで近づけないし、まー君も遠慮してか私から一定の距離には入って来ようとしない。


 というか、そもそもなんで私が女になってからこんなことを考えるようになったのか、男だったときはまー君に対してこんなことは全く考えなかったからやっぱり私のどこかがおかしいのかやっぱり嫉妬心が人より異常に多いというか、拗らせすぎているというか――


「グギ、ギギギ、ギ、ギギ……」


「おい姉、顔が凄いことになってる」


「……? 急に寒気が」


「大丈夫っすか?」


「えーと……、ああ。取り敢えず、今俺が言えるのはこれくらいだから」


「あざっす!」


 取り敢えず、思ってみてもいないところで私の心の火が明確に自覚できるまでに大きくなっているのを感じていたのだった。

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