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124話 アクセラレーション

「近場だけどここは来たことなかったなぁ」


「帰りに寄り道したりしてて見つけたけど、結構雰囲気の良いお店でしょ?」


 実が行きたいという店があるというのでついて行くと、そこには感じの良い軽食屋があった。


「実のオススメって何かある?」


 席に座り、メニューを一瞥してから実に聞いてみる。


「んー、まだオススメが出来る程食べてないから、メニューに書いてるオススメか、自分の直感を信じたら良いと思う」


「なるほど」


 実もまだここには来慣れていない様子。ふむ、気になるメニューは幾つもあるな。


「2つ以上気になるのがあったら2つ頼んで分けたら良いと思うけど……」


「……おう」


「あ、そういうのダメな感じ?」


「いやそれは……大丈夫だけど」


 ダメというより……、美少女との間接キスになることが気になるな……。


 あと、実のコトをもう既に「ただの美少女」にしか見えてないような気もしてくる。友人ではあるけど、それはそれとして、別枠……と言えば正しいのか分からない。けど、何と言うか、ふとした瞬間、時折、見知らぬ美少女が面の前に居る錯覚に陥るときが最近増えたように思える。……こう考えると俺は末期かも知れない。


「で、どれとどれで迷ってるの?」


「ああ、悩んではいたけど、1つに絞れたから大丈夫」


「……そっか」


 少し寂しそうな眼を投げかけてくるように錯覚するあたり、本当に末期かもなぁ……。


 そんなことを考えながら注文をして、いつの間にか料理がテーブルに並べられていた。


「そっちのもまだ食べたことないから、良かったら一口貰える?」


「ゑ?」


「こっちのも一口あげるからさ……、ダメ?」


 実のプレートを見せる為か差し出す為か、小首を傾げて少し瞳を潤わせながらグイとこちらにそれを寄せてきた。


「……いただくよ。俺のは先にどうぞ」


「おー! 話分かるー!」


 本ッ当に、最近の実の考えていることが分からなくなったな。さっきまでの庇護欲をそそらせる小動物のような雰囲気から一転、明朗快活というか何と言うか、距離感がいきなり狭められた感じがしてドキドキする。何だコレ。可愛さから別ベクトルへの可愛さへ振り切られ、訳が分からな過ぎてキレそう。


「やっぱりそっちのも美味しいね」


「……ああ。実が頼んだ方も、美味しいよ」


 情緒はしっちゃかめっちゃかだ。美味しいと言ったけど、もう少し心の余裕が無かったら味が分からなくなっていたかも知れないほどだ。


「あー……あのさ」


「うん?」


 舌鼓を打ちながら目の保養もできる今の状態を楽しんでいると、実は料理への手を止めて、何か気まずそうに口を開いた。


「もしかして、何か悪いことでもしたかな……?」


「……どうして?」


「いや何か今日、反応良くないかなって……。他に予定とかあったかな、やっぱり?」


「そんなことはないよ。本当に予定は無かったし」


「気を遣わなくても良い、けど……」


「俺、こういうので気を遣ったことないんだけど?」


 実の姿に見蕩れて会話がおざなりになっていたかもしれない。危ない危ない。


「そう言ってくれるなら……うん、分かった」


 この“分かった”、内心では“分かって”ないような表情して言ってくれるなぁ……。


「そういえば、まー君は私が家に行くまで何してたの?」


「ん? 普通に学校が出してた課題やってただけだけど……? また何で?」


「何でって……、ちょっと気になっただけ。私も課題はやってるけど、今のペースだと春休みが終わる前に受験勉強に辿り着けないかなとも思ってて――」


 と、実自身から春休みの課題の話に繋げてくれたみたいで、なんとか不信感に通じる話題から遠ざかってくれたようだった。


 ……一旦忘れているというだけで、また思い出されたりして不信感を募らせたりしたら、困るなぁ。

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